世界統一されたハンディキャップシステム

ゴルファーなら大概「ハンディキャップ」という言葉は知っているが、実際に持っている人や正しく使っている人は案外少ない。コンペに参加した経験があっても、ほとんどが新ペリア方式という競技終了後に逆算する「くじ引きハンディキャップシステム」だから優勝者も実力で優勝した実感がない。優勝して感想を聞かれると「パートナーとハンディキャップに恵まれまして・・」と妙な挨拶をするが、それが優勝者の偽らざる実感だ。そのハンディキャップシステムが2014年1月からUSGAシステムに統一されることになったが、世界はとっくの昔に1998年からUSGAとR&Aの決定に従ってゴルフ規則同様に世界統一基準になっていたのだ。日本だけが例によって諸般の事情により統一基準を導入できなかったが、2014年日本で開催される世界アマ、2016年リオで開催されるオリンピックを前にいよいよ世界統一基準を導入することになった。

世界統一基準になったUSGAシステムというのは受験偏差値に大変似た制度で、受験校に相当するコースに 55 から 155 までの Slope Rate(難度)を査定し、受験生に相当するプレーヤーに +3.5 から 40.4 までの Handicap Index (技量)を査定するシステムになっている。USGAシステムによれば、ひとりのプレーヤーが SR 90 のコースでプレーした場合と、SR 130 のコースでプレーした場合では同じスコアでも評価は全く異なる。どちらのコースもボギーペース 90 で回ったとすれば SR 90 のコースは 100X113/90=125.5 と評価され、SR 130 のコースは 100X113/130=86.9 と評価される。113 はUSGAの定める一般プレーヤーの標準難度を指しており、実際に査定するときは更に上級者用の難度基準 Course Rate も加重してHandicap Index算出の根拠にする。

私たち日本のゴルファーはハンディキャップがないことに慣れてしまったから今さら世界統一基準を導入すると言われてもピンとこない。でもゴルフが巧そうな人を「あの人はシングルだ」といって崇拝しているのは事実で、実際に根拠を聞いてみると「ドライバーを250ヤードも飛ばすから」という理由によるのはびっくり仰天だ。それを裏付けるようにゴルフ雑誌はどれも「飛ばしの秘訣」を書き並べ、クラブやボールの広告はどれも「脅威の飛び」を宣伝している。実際のところ多くのゴルファーにとって飛ばすことが命で、ハンディキャップなどどうでも良さそうだが、それでは世界アマやオリンピック開催国としていささか寂しいし、日本人を正統ゴルファー・国際ゴルファーとはお世辞にも言えない。あらゆるスポーツゲームの中でゴルフだけがハンディキャップ概念を持ち、老若男女が技量に拘りなく同等勝負できる舞台をつくり名実共に生涯スポーツやファミリースポーツを具体化した。東京オリンピック開催までになんとか日本のゴルフやゴルファーが世界から評価されるようにしたいものだ。

 

強かった韓国女子プロ

全米女子オープンゴルフで韓国女性が驚異的なスコアで上位を独占した。優勝者のパクインビは大会三連覇という歴史的偉業まで成し遂げた。韓国女子プロの強さはもはや誰も否定することができないばかりか、世界最強国といって差し支えない。何がそうさせたのか、なぜそうなったのか興味は尽きないが、今のところ私には何も分からない。ただ唖然とするばかりだ。26名が出場して14名が決勝に進出し上位3位を独占している。さらに驚いたことにその3名は全員アンダーパーだった。韓国選手以外は誰もアンダーパーで回れなかったのである。USオープンはUSGAと世界のトッププレーヤーとの真剣勝負であることを考えれば、8アンダーで優勝したことはUSGAが韓国女子プロに大敗したことを意味する。

 

たびたび書いているように1970年代からUSGAはストロークプレー概念の大改革を行い、全てのプレーヤーとコースの真剣勝負を可能にする条件や基準を定めてきた。プレーヤーにはハンディキャップ・インデックスという技量偏差値を、コースにはコースレートとスロープレートという難度偏差値を定めた。そのうえでコース側は挑戦してくるプレーヤーの技量偏差値に対応して、難度偏差値が変えられるようコース設定の条件をポイント化したのである。会場となったニューヨークのサボナックゴルフクラブは、ジャック・ニクラウスとトム・ドークが共同設計した難コースといわれている。ニクラスは難コースを造ることで有名だし、トム・ドークは難コース造りで有名なピート・ダイの弟子だそうだから、聞いただけでウンザリするコースだ。

 

USGAはコース設定に際してアメリカ、イギリス、スウェーデンあたりのトッププレーヤーたちのハンディキャップインデックスを基準にしたに違いない。その証拠に上位三名の韓国選手以外は誰もアンダーパーで回れなかった。韓国プロの技量を過小評価していたのだろう。そもそもUSGAハンディキャップシステムそのものが伝統的に女性に対して優しいから、韓国女性の強さがグローバルスタンダードを超えているのかもしれない。アメリカ女性の強さは音に聞こえているが、韓国女性はそれより遥かに強かった。韓国女性に大敗を喫したUSGAは、レディスの定義を変えなければならない。

 

ゴルフはもともと老若男女誰とでも一緒にプレーできることが特徴だから、男女別々に競技していることが時代遅れなのかもしれない。ティーインググランドの位置を変えるだけで条件は互角になるから、一度やってみればいいのに。そうだ。後発のアジア太平洋ゴルフツアーは、男女混合試合にすれば大和ナデシコたちが欧米の大男たちをヒネル姿が観れるかも知れない。USGAコースマニュアルでは、ロングヒッターに厳しくコース設定することだってお茶の子サイサイなのだから。

 

進化した世界のゴルフ

今年のUSオープン中継の解説を丸山茂樹が担当した。解説を聞いていて「さすが!」と思ったことがいくつかある。何年もアメリカツアーに参戦し散々苦杯をなめてきたからこそ言えることをいくつか口にしていた。そのひとつがUSGAのコースセッティング能力の高さを熟知している点である。「全米オープン」は米国のコースを舞台に、世界のトップアマ及びトッププロが世界一を競うトーナメントである。競技方式は72ホールストロークプレーだから、言ってみれば世界のトッププレーヤーは、USGAが設定した難コースに力の限りを尽くして挑戦する構図になっている。

 

USGAは30年以上前からストロークプレーの大改革を行った。マッチプレーが人対人の真剣勝負であるのに対して、ストロークプレーは人対コースの真剣勝負という概念を明確にした。そのためにUSGAはハンディキャップ査定やコース難度査定に徹底した改革を施し、どんなレベルのプレーヤーとコースとでも互角勝負ができるシステムを考案したのである。だから世界のトッププレーヤーを迎え撃ったとしても、やたらにアンダーパーを出されてはコースがボロ負けしたことになるから、USGAの運営委員とコースのヘッドプロ及びグリーンキーパーは、世界のトッププレーヤーたちが死力を尽くして攻めてきても、絶対に負けないためのコース設定を必死に考える。四日間通してイーブンパーで優勝すればプレーヤーとコースは完全に互角勝負をしたことになる。コース側は1年以上前からコースやグリーンの改造を行ったり、フェアウェイデザインを変えたり、コースコンディションを整えて試合の日に備えている。

 

今年はジャスティン・ローズ(英国)とフィル・ミケルソン(米国)の一騎打ちとなり、ミケルソン最終ホール第3打でローズの優勝が確定した。優勝スコア1オーバーパーだからコースが1打勝ったことになる。出場選手全員がオーバーパーで予選通過者の最下位は27オーバーだから、みんなヘトヘトだったろう。丸山茂樹は解説の中で「僕としてはアンダーパーで優勝して欲しい」と言ったが、永年アメリカツアーに挑戦してきた者としては、当然プレーヤーに勝って欲しかったに違いない。USGAが名誉と誇りにかけて厳しいコース設定してくることを、骨身にしみて分かっている丸山にして初めて語れる言葉だろう。ワンアンダーならプレーヤー側の勝ち、イーブンなら引き分け、ワンオーバーだったからコース側の勝ちということだ。プレーヤーの立場からすれば、コース(USGA)に負けることが悔しかったのだろう。世界のゴルフがそこまで進化していることを丸山茂樹は知っていたのだ。

 

正統ゴルフへの道 1

大学を卒業してからゴルフを始めた私は、生涯一度も正式にゴルフを習ったことがない。会計法律事務所を辞めてゴルフ練習場の支配人になった私が最初に手がけた仕事は『月例競技会』と『ゴルフ教室』を開くことだった。練習場の役割は「上達したい動機付をつくること」と「正式なゴルフを教えること」だと考えたからだ。練習場でいくらボールを打ってもコースで正式なゴルフゲームをしなければゴルフプレーヤーにならない。正式なゴルフゲームとはルールに則った競技会に参加することだが、練習場ゴルファーには競技会に参加する機会がない。いつの時代も会員権を買ってクラブメンバーになる人は全体の2~3割程度にすぎないから、ほとんどのゴルファーが競技会に出る機会もないまま練習場に通って打ち直しの練習をしていたのである。

 

例えばバッティングセンターに通ってバッティングの練習をし、塀に向かってボールを投げてキャッチする練習をしても、野球というゲームに参加しなければ本当のベースボールプレーヤーにはなれない。壁に向かってテニスボールを打っている人も、実際にコートで相手とボールを打ち合ってはじめてテニスプレーヤーに成長する。相撲も四股を踏んだり柱にぶつかるだけでは相撲取りにはなれないし、それを一人相撲という。練習場でひたすらボールを打っている人を見ていると、バッティングセンターや壁テニス、一人相撲に汗を流している人と重なって、何とかしなければいけないと思い始めた。自分も支配人を引き受けたからには、正式にゴルフを学ばなければいけないと思って学校を探してみたが、東京でも芝の女性ゴルフ教室、赤坂と瀬田の陳清波モダンゴルフ教室ぐらいで学校といえるものはなかった。それまで英語、柔道、書道、会計、法律いずれを学ぶにも、テキストがあり教師がいて基本から順序良く指導してくれたものだ。ゴルフも奥が深いし難しいから、当然のこととして専門学校があり基本体系指導してもらえるものと思ったのである。誰に聞いても専門学校どころか、ゴルフは習うものではなく慣れるものだという。「そんな馬鹿なことはないはずだ」と思ったのが運の尽き。ゴルフの基本体系をまとめるのに30年の歳月を要するとは、その時点では夢にも思わぬことだった。

 

月例競技会を始めてまずルールの勉強から取り組んだが、次にすぐハンディキャップの問題が浮上した。公平適正なハンディキャップを算出するには正式な計算規定に従わなければならない。USGAハンディキャップマニュアルを読んでスコア台帳を作成し、練習場を閉めた後、そろばんを使って一人一人ハンディキャップ計算をするのは時間のかかる仕事だった。過去のスコアデーターから規定数の直近上位ディファレンシャルを検索し、その平均値の96%を整数にしてハンディキャップとする計算規定は、コンピューターには優しいがそろばんには厳しい。1970年代に入って米国は既にコンピューター社会が始まり、科学技術ゴルフの探求が始まっていたことを知るのは、それから大分経ってからだ。

 

マネジメントゴルフ

ベテラン谷口徹が「日本プロゴルフ選手権」でまた優勝した。距離があって難度の高い烏山城C.C.は日本の巨匠井上誠一の設計によるが、このコースは井上誠一最後の遺作とも言われている。コースを創設したのは長い間JGA の発展や改革に貢献された田村三作氏だが、日本一のコースづくりを目指していた田村さんが井上誠一を見込んで設計依頼したと聞く。田村さんは毎日散歩をかねてコースを回り、井上誠一の設計思想を大切にしながらも改造に改造を重ね今日の姿にされた。特に上がり三ホール16,17,18番でドラマが演出されるよう、その舞台装置づくりに田村さんの渾身の知恵と情熱が込められている。そんな田村さんはゴルファーや指導者の養成にも深い理解と情熱をもっておられたから、この烏山城C.C.からどれだけ多くの人材やトッププレーヤーが育ったか数え切れない。だから日本のゴルフメッカといっても差し支えない。

 

アメリカ型科学技術ゴルフがパワーゴルフからマネジメントゴルフに姿を変えていた裏舞台では、USGAがハンディキャップシステムの大改革を行っていた。つまりストロークプレーはプレーヤーとコースのホールマッチという思想に基づいて、プレーヤー側の技量偏差値をハンディキャップインデックスと言う概念で、コース側の難度偏差値をコースレートとスロープレートという概念で捉えるようになってきた。この概念から『孫子の兵法』が説く「敵を知り己を知れば百戦これ危うからず哉」という現代マネジメントゴルフの思想が生まれてきた。マネジメントゴルフをするには、コース側もUSGAハンディキャップシステムによるUSGAコースレート・スロープレートを導入しなければならないが、田村さんはJGAより10年以上も早くUSGAシステムを導入している。

 

優勝した谷口徹は米国PGAツアーを戦ってきている歴戦の古参プロだ。本人も言うようにショットは逆球ばかり出て調子は最悪だったようだ。自分の調子と対戦相手となるコースのコンディションを、どこまで知っていたかがマネジメントゴルフの勝負の決め手となる。新聞によると谷口は、早朝コース委員がボールを転がしてグリーンスピードを計っているところを偵察し、敵情を知ったうえで作戦を立てたという。コース情報を収集して自分の最適パフォーマンスを適応させることをコースマネジメントというが、『孫子の兵法』を実践して勝った古参谷口徹と、バンザイ突撃を繰り返して玉砕した若武者石川遼の烏山城攻防戦を、天国にいる田村さんはどんな思いで観戦されたか是非とも聞いてみたい。最新長尺クラブをマン振りして、玉砕に玉砕を重ねる我ら凡人ゴルファーや若武者プロは、もっとマネジメントゴルフを勉強するか、谷口プロの爪の垢でも煎じて飲む方がきっと「早い安いうまい」にきまっている。

 

ゴルフのグローバルスタンダード

1998年、日本を除く世界各国は共通ハンディキャップ制度に踏み切った。そう「日本を除く」だから欧米豪州はもちろんのこと、韓国・台湾・中国・インド・フィリピン・マレーシアなど、アジア諸国も含む世界のゴルフ国が一体となって踏み切ったという意味だ。ひとことでいえばゴルフがグローバル化したため、世界のゴルフ国がグローバルスタンダードを採用したことを意味する。「なんだ、それだけのことか。自分には関係ない」と思ったとすれば、その人は明治維新後もちょんまげ姿に刀を差して高楊枝をくわえた素浪人と同じだ。封建制度が崩壊して身分制度が変わっても、平然として旧制度に生きていられる豪傑には違いないが、周囲は少しもカッコイイとは思わない。

 

私たち日本人がワールドゴルファーとして世界に受け入れられるには、誰の目にもスマートなゴルファーでなければならない。まずエチケットルールから始まってハンディキャップが取得できるまで、ゴルファーとしての品格技量を身に付けなければならないが、それにはまず技量以前のプレーマナーが問われる。私たちが社会人である以上、挨拶をするにも会話をするにも食事をするにも、相手を不愉快にさせない最低限のマナーが要求される。ゴルフも同じことでエチケットルールをわきまえ、他人に迷惑をかけずにセルフプレーできることが求められる。国際社会では礼儀正しいと評価される日本人が、ゴルファーになるとなぜワーストランキングに入ってしまうのだろうか。

 

日本のゴルフは戦後の高度経済成長の波に乗って発展したから、どうしても成金ゴルフの姿が残ってしまった。その典型がキャディー付き接待ゴルフである。ゴルフ場は接待場、キャディーは接待係の役を負っているから、ゴルファーのマナーは問われずに、むしろ接待場と接待係のマナーが問われた。お客様は神様だから、どんな横柄でわがままな振る舞いも許される環境が生まれた。ここから世間知らずの田舎ザムライが大量に生み出されたようだが、今流に言えば「品格無きゴルファー」ということになり、私もその一人かと思うと寂しい。

 

最近は客不足に悩むゴルフ場を「さすらいゴルファー」が荒らしまわっていると聞く。ネットで安いゴルフ場を探し、コンペと称して賞品や景品をたかり、更なる割引や割戻しを要求する。そういうコンペに限って金を賭けるから、必要以上に慎重になってハーフ3時間以上のスロープレーになる。マーシャルに注意されると反抗的になり、二度と来るかと悪態つく厄介者だが、これも景気低迷が生んだ「品格なきニューゴルファー」か。ゴルファーにもグローバルスタンダードが必要になったようだが、「田舎ザムライ」や「さすらいゴルファー」のローカルスタンダードは、世界で全く通用しないことだけは承知しておかないと、日本人の評価が世界的に高まっている時だけにまずい。

 

ゴルフの制度改革

2012年、今年からJGA(日本ゴルフ協会)がハンディキャップ改革に乗り出すことになった。これは改革と言う言葉を使わなければならないほど大変なことで、協会だけでなく全ゴルフ場、全ゴルファーが一体となって意識改革しなければならないほど重大なことなのだ。日本のゴルフが欧米豪州から30年以上も遅れたといわれる最大要因のひとつに、ハンディキャップ制度の遅れがある。つまり、本来ハンディキャップは全てのゴルファーに公開された制度でなければならなかったものが、日本では協会の利権として聖域化され一般ゴルファーとは無縁の存在となっていたことが原因である。

 

日本人が外国でゴルフをするとき、フロントでハンディキャップ証明の提示を求められて面食らうことが多い。日本人ゴルファーの95%以上はハンディキャップを持っていないし、大半の人がハンデキィャップの意味すら分からない。私が高校生の頃「自動車免許がとりたい」と言ったら、親は「気でも狂ったか」と言う顔をしたが、クルマが運転できる証明にどうしても免許が必要だった。免許欲しさに当時建設中だった環七道路で運転の練習をしていたが、いま聞けば驚く話に違いない。日本が先進国としてクルマ社会を実現するには免許制度を確立させなければならなかったのである。世界は既に14年前、クルマの免許制度のように世界共通ハンディキャップ制度を確立して、ゴルファーである証明にハンディキャップを利用するようになった。

 

ゴルフは世界的に大衆化するに連れてクラブも安くなり高性能化した。今では中国で大量生産された高性能クラブセットが2,3回のゴルフ代で買える時代だ。私の環七練習よろしく、エチケットルールも分からないままインターネット予約を取り、コースに試し打ちに出掛ける若者が増えてきた。クルマは運転免許がなくても簡単に200キロ以上のスピードが出る。ゴルフもハンディキャップがなくても簡単に200メートル以上も飛ばせる。いずれも危険な点で似ている。

 

かつては日本のゴルフ場もプレーをするのにハンディキャップが必要だった。
フロントのサイン帳に「ハンディキャップ記入欄」があったし、スタート表には「各組ハンディキャップ合計90以内でお願いします」と書いてあった。若かった頃の私はこの制度に疑問を感じていた。ハンディキャップを取るには高価な会員権を買い、クラブ競技に出なければならなかったからである。練習場やパブリックコースのゴルファーにはハンディキャップ取得の道がなかったから、私はUSGAハンディキャップマニュアルを読み、スコア台帳を作って、そろばんや手計算でクラブサークルコンペのハンディキャップを査定していた。ハンディキャップにはクルマの免許制度のような高いモチベーション効果があって、ゴルファーに自覚と責任を持たせることができる。クルマと同様ゴルファーにもハンディキャップという国際ライセンス制度が必要な時代になったが、これからは世界の人たちに、日本人ゴルファーを『エチケットルールも知らずハンディキャップもない田舎ザムライ』とは絶対に言わせたくないものだ。

 

チャンピオンコースの難度

ホンダクラシックが開催されたフロリダ州パームビーチのPGAナショナルチャンピオンコースの難しさは半端なものではない。ホームページで見る限りではコースレート75.3、スロープレート147、パー72となっている。このコースを更にトーナメント用に難しくパー70に設定して開催された。それにも拘らず四日間通産13アンダーとは恐れ入る。私はこのコースで生涯ワーストスコアを記録しているからよく解る。ヘッドプロからボールを1ダース持っていくよう勧められて出陣したが、案の定17番で球尽きて、拾った球を大事に使って18ホールを終えることができた。昔のクラブだったとはいえ、ティーショットがフェアウェイに届かないどころか、池を越えられないホールがいくつかあった。

 

当時はUSGAハンディキャップシステムがグローバルスタンダードになっていなかったから、私ごときアマチュアプレーヤーがこんなコースレートやスロープレートのブラックティーからプレーすることもできたんだろう。ヘッドプロがみやげ話にさせようと回らせたに決まっているが、確かにこのときの話は何年経っても聞く人を笑わせる。現在はインデックスを提示しなければプレーもできないし、提示しても私のインデックスではホワイトかグリーンティーからプレーするよう勧められるに決まっている。仮にこのコースを100で回ったとしても(100-75.3)×113/147=19.0となり19オーバーパーでプレーしたものと評価される。このような難度調整機能が世界基準として定められた。

 

この世界基準となったハンディキャップ・インデックスを持っていれば、世界中のチャンピオンコースに挑戦できるが、インデックス18.0前後のアベレージゴルファーならスロープレート113から125くらいのティーでプレーすることをお勧めしたい。その方が本人も楽しいし周囲が迷惑しなくて済むから、コーススタートに掲げてあるハンディキャップ換算表と睨めっこして、しっかりとコースマネジメントするに限る。ストロークプレーはコースとプレーヤーの真剣勝負だから、スコアカードのホールハンディキャップ欄に記載される難易度ランキングをチェックして、ハンディキャップホールをマークしておけば比較的楽にそのホールを攻めることができる。何でもかんでもパーを取りに突撃を繰り返せば、全ホール玉砕して私のように生涯ワーストスコアを更新することになるだろう。殆んどの人がツアゴルファーとして世界中の色々なゴルフコースをプレーして歩くことができるようになって、ゴルフは益々楽しい生涯スポーツになったが、それにしても日本のゴルフコースの世界一高額料金はいつになったら国際標準価格になるのか。この料金ではやがて海外からのツアゴルファーはゼロになってしまいますヨ。

 

コースマネジメント

1979年アメリカセミナーでコースマネジメントという言葉を初めて聞いたがコース管理のことだとばかり思っていたら、講師は私たちをコースに連れて行って局面毎の状況判断要素を指導してくれた。「なーんだ、コースガイダンスのことか」と思ったのは早合点で、その頃アメリカではゴルフイノベーションが始ったばかりで、田舎ザムライにはアメリカの志を理解するには遠く及ばなかったようである。USGA(全米ゴルフ協会)ではコースレート査定とハンディキャップ制度の抜本的改革研究に乗り出していたし、米国ゴルフ設計家協会ではあらゆるゴルファーが本当のゴルフを楽しめるようコース設計に画期的変革をもたらそうとしていた。同じコースで上級者と初中級者がそれぞれの楽しさを追求できるコースデザインの探求である。衛星放送で中継されるコースの美しさは目を奪われるようであるが、美観と戦略性と経済性を同時実現した現代の米国ゴルフ場開発技術は賞賛に値する。

 

孫子の兵法に「敵を知り己を知れば百戦これ危うからずや」という戒めがあるが、ストロークプレーではコースのスロープを知ることが敵を知ること、最新インデックスを承知していることが己を知ることに当たる。スロープもインデックスも分からず「えっ!それってなに?」と言うと「敵を知らず己を知らざれば百戦これ危うし」ということになる。若ザムライには知略に長け礼節を重んじ勇敢であって欲しいと思うのは私一人だけではあるまい。若者自身も世界に通用する日本人のアイデンティティを持ちたいと願っているようだが、日本人は日本人を自覚するだけで立派なアイデンティティをもつことになる。正直・律儀・礼節が日本人の三大特性で意識すればDNAが働いてくれるはずだ。このDNAはゴルファーにとっても欠かすことのできない特性だから、基本的にゴルフは日本人に向いている。しかし闘うとなれば更に知略が必要となる。

 

現代マネジメントゴルフをするには、三大特性に知略が伴わなければ突撃と玉砕を繰り返すことになるが、私たちの先祖には楠正成、真田雪村、東郷平八郎など知略に長けたサムライもいる。コースマネジメントとは知略をもってコースと闘うことを意味するから、難しいコースに挑戦するにはまず敵を知り己を知ることから始めなくてはならない。90%以上がホームコースを持たないツアゴルファーになった現代では、闘う相手となるコースの情報をどれだけ持ち、いかに作戦を立てたかで結果が決まる。コースマネジメントの重要性は益々高まるはずだが、私たちはやっとグローバルワールドの入口を見つけたばかりだ。

 

インデックスとスロープレート

従来ハンディキャップはクラブ内でのランキングを示す表象として各クラブの裁定に委ねられてきた。クラブでは地位や名誉を表彰する代名詞にもなっていたから、東京倶楽部と田舎クラブでは同じハンディキャップでも地位や力に差があるとされた。では東京倶楽部HP18の人がぺブルビーチ・スパイグラスヒルやサンディエゴ・トーリーパインを90前後で回れるかといえば100%無理。両コースともパブリックコースじゃないかと思うが、100以内で回れたら最高のできと思わなければならない。では「ハンディキャップってナンなんだ」という疑問が湧くが、私たちが認識しているハンディキャップとは、クラブ内だけで通用するランキングに過ぎない。では「JGA公認ハンディキャップってナンなんだ」といえば、日本国内だけで通用するランキングということになる。では「世界に通用するランキングがあるのか」というと、ハンディキャップ・インデックス-Handicap Index-となる。

 

これは1998年6月から定められた世界共通のグローバルスタンダードで私たち日本人だけが知らない。10年ほど前、ヨーロッパアマチュアチャンピオンになった男に「極東の島国に住む小人達にハンディキャップ文化は理解できまい」と馬鹿にされて、ニューヨークまで喧嘩しに行ったことがあるが、今思えばこちらが田舎ザムライだった。日本の若ザムライたちが米国に渡って、どんな悔しい思いをしているか想像しただけで断腸の思いだが、残念ながら勉強する以外に手はない。勉強し大和魂を鍛えて礼儀正しく基準に従って闘うことだ。日本人の英語ベタは最早グローバルスタンダードとして世界に通用するから、ヘラヘラすることなく寡黙なサムライを通せば良いし、騎士道ゴルファーは武士道ゴルファーを尊敬しているから、黙ってインデックスを示すだけでよい。

 

インデックスとはプレーヤーの実力を示す国際偏差値のことだから、インデックスを証明できなければノンゴルファーと思われても仕方がない。ゴルフはゴルファーとコースの闘いだから、ゴルファーの実力が分からないとコースは相手をして良いものかどうか困惑する。柔道場や剣道場で挑戦者の段位が分からなければ誰が相手をするか困惑するだろう。挑戦を受けるコースも実力を示す55から155までの段位を用意して待っている。これがスロープレートだ。コースは4箇所か5箇所の異なるスロープのティーを用意している。例えばブラック146、ブルー135、ホワイト124、グリーン113、レッド102というように。113は標準的難度を表わし数が大きくなるほど難しくなる。インデックス18.0ならホワイトは少々手強いが、グリーンティーは良いお相手となる。