ゴルフ再生への道 2-07 情報鎖国と人材育成

ガラパゴス島というのは、そこで生まれ育った生物にとっては誠に快適な環境らしく、島の外に出ると違う環境に馴染めず絶滅してしまうという。情報鎖国している日本の社会環境に住むガラ系住人は外国の社会環境では絶滅するだろうといわれている。例えば日本の農業・漁業から弁護士・会計士・医師・教師まで国の手厚い保護の下に育った職業人は大部分がガラ系だといわれている。実は日本のゴルフ界の人たちは国の手厚い保護を受けたわけではないのにガラ系職業人になってしまったが一体何故だろう。

 

日本のゴルフ産業は教育不毛のまま未曾有の大成長を遂げてしまったが、それは文化としてではなく商業娯楽あるいは金融ビジネスとして一過性のブームに乗ったに過ぎなかった。ブームは去ればそこに必要性も必然性もなくなり、何の魅力も感じなくなってしまうのが常だ。ゴルファーは自然増殖するもの、客は何もしなくても押し寄せるものと思い込んでいたら、ある日突然状況が変わってしまった。余りにも恵まれた市場環境に育った職業人は環境変化に対応できず、いつか元に戻ると信じて10年を過ごし、なすすべもなく更なる10年を過ごしてしまったが、気が付けばそれは絶滅への道のりだった。

 

ゴルフ界に働く人たちはゴルフラッシュの時代感覚を日本の常識として捉えてきたために世界の常識を無視してきた。ゴルフは贅沢なスポーツだから平日1万円・土日祭日2万円が常識。一流コースはキャディ同伴・豪華昼食付18ホールストロークプレーが常識。競技ハンディは新ペリアが常識。ドレスコードこそゴルフの常識。ましてゴルフは我流が常識。専門教育など受けた者がいないのが常識となれば完全なガラパゴス島だ。日本の常識は世界では通用しない。世界で通用しないことが段々日本でも通用しなくなる現象をグローバル化ともいうが、グローバル化はIT化と共に進むから、情報鎖国してもネットが世界の常識を片っ端からバラしてしまうので止めることができない。

 

世界の資本主義社会は市場原理に基づく競争と淘汰の中で成長してきた。日本の資本主義は1940年に布かれた国家総動員法に基づく統制令の下に、戦後も競争と淘汰を避けて護送船団に護られ発展してきた。第一次安倍内閣が掲げた戦後レジームからの脱却とは、この護送船団の打破を意味したが正しく理解していた人は余りいなかったようだ。TPP交渉が始まってようやく「日本の常識、世界の非常識」の意味が解り始め、安倍内閣の支持率も安定してきた。極東の孤島から世界に飛び出した企業や人材は競争と淘汰の中で逞しく成長していったが、護送船団に護られたり情報鎖国に閉ざされていた企業や人材は今や絶滅の危機を迎えている。ガラ系とは変化に対応できない絶滅種をいうようだ。

 

ゴルフTPP

TPPの是非をめぐって世の中が騒がしい。TPPはグローバル時代に先駆けて環太平洋地域を自由貿易圏にして、戦略的同盟条約を結ぼうということらしいが「そんなことされたら先祖代々、段々畑や裏の田んぼで細々と百姓している爺さん婆さんをどうしてくれる」と言われるし、「先のない零細農家を継ぐくらいなら若いうちに開拓民として日本を飛び出した方がましだ」とも言われる。私も含めて世の中の人はそれが自分にとって損か得かで是非を論じるのが普通で、反対派は既得権が侵害される人だし賛成派は新天地を求めている人だ。爪楊枝をくわえてニヤニヤしている人は「俺にゃ関係ねェ」と思っている人に決まってるし、「TPPって何?」っていう人も結構多い 。

 

幕末の世の中も開国か攘夷をめぐって騒がしかったと歴史の本に書いてある。賛成派と反対派は京の河原で斬りあうし、新島襄みたいに日本脱出に成功する人、吉田松陰みたいに脱出に失敗して命を落とす人さまざまだ。「関係ねぇ」と思っている人は雨戸を閉めてひっそりと息を殺していたんだろう。騒ぎが段々大きくなると権力争いに発展し戦争になる。はじめ圧倒的に優勢だった幕府軍は長州軍を蹴散らしていたが、やがて近代兵器で武装した薩長土連合軍の前に降参し、権力の座を明け渡してしまった。自分の立場で賛成しようが反対しようが、歴史回転のエネルギーの前に個人の力はどうすることもできない。
だったら雨戸を閉めて座布団かぶってないで、高いところから世の中どう変わっていくか観察するほうが賢い。

 

老いぼれたはずの井戸木鴻樹が全米シニアプロ選手権優勝という快挙を成し遂げた。日本国内にいてはウダツが上がらないと思ったか、新天地を求めて米国シニアツアーに挑戦し見事な結果を残した。160センチ級の井戸木は「小さな体でも通用することが分かってもらえれば幸せ」と謙虚に語ったというが、サムライの器量は体の大きさではなく魂や肝っ玉の大きさで決まる。だからゴルフの世界でもTPPの時代に打って出る覚悟がないと先細りになることは目に見えている。米国ツアーと欧州ツアーは盛況だが、アジアツアーが振るわないのは日本ツアーの小心翼々とした姿勢と肝っ玉のなさに原因がある。TPPに相乗りして環太平洋ツアー機構に拡大し、アジア新興勢力を巻き込んで米国ツアーや欧州ツアーと勝負したらいいのに。

 

私たち無責任な爪楊枝組は、ネット中継やBS放送で米国ツアーや欧州ツアーを観戦しているから、日本ツアーが物足りなくて仕方がない。米国や欧州の強豪とアジア日本のプロが、環太平洋ツアーで真剣勝負する姿をライブ中継で観れる時代がやってきたと思うとワクワクするが、残念ながらゴルフ界のTPP反対派を斬ってしまわないと、それは実現しない。「ワタシはもう70過ぎたから急いでくれない?」と今は爪楊枝くわえてつぶやいているが、早くしないと「オレの葬儀を先にネット中継しちまうぞ!」と凄みたくもなる。

 

国際化しない日本のゴルフ

文部大臣の指導資格認定証はゴルフ界にもある。日本プロゴルフ協会が発行するインストラクター資格には時の文部科学大臣の名前がデカデカと書いてあるから有難い免許皆伝に違いない。しかしゴルフは世界中で行われているスポーツだし、とっくの昔に国際化しているはずだから、今さら日本国文部大臣認定もなさそうだ。リオデジャネイロ・オリンピックから正式種目に採用されるから、いよいよグローバル化といえるが、その前提条件として世界統一基準や統一規則が採用されたことがあげられる。競技をつかさどる規則は米国USGAと英国R&Aによって世界統一されているし、コースの難度査定やプレーヤーの技量評価もUSGA基準によって世界統一されている。最も大切なプレーヤーの養成や育成は独自の創意工夫や研究努力,それをサポートするコーチの能力に委ねられている。欧米諸国は勿論、中国や北朝鮮でもゴルフコーチの国家認定制度や行政保護政策などないが、日本では文部省が競技団体や指導者団体を行政管理下に治め、保護規制によって自由活動を制限している。「文部省公認団体は外国技術ノウハウの導入を禁止する」「文部省の認めない団体に加担協力したものはプロ資格を剥奪する」「文部省の認めない機関の教育を受けたものは、アマチュア資格喪失の原因となる」等々。日本の社会構造は国際化された自由な世界と思われているスポーツ界ですら、実は行政の統制下にあって民間の事業活動が規制されたり制限されている。以前から「構造改革」や「規制緩和」が叫ばれているが、実態や現実を分かっている人は政治家やマスコミも含めて極めて少ない。相撲協会や柔道連盟と同じようにゴルフ団体の構造や規制についても、実態が分かっている人は殆どいない。

 

TPP交渉参加の意味は、幕末に欧米列強から通商条約の批准を求められたのに良く似ている。日本に住んでいると日本は何でもできる自由な国に思えるが、実は規制や制約が多くあって、新しいことや革新的なことは何も出来ないガラパゴス島であることに気がついていない。「井の中のカワズ、大海を知らず」という諺があるが、日本ガラパゴス島に住む日本人には世界の実態が分からない。「知らぬが仏」という諺もあるが、知らないことによってかえって平和でいられることも多いから知ろうとしないのかもしれない。日本で土日祭日にゴルフをしようと思えば、近郊ならメンバーに頼んで高いビジター料金を払うか、近県なら高い高速道路料金と平日の五割増料金を払わなければならない。どっちが安くつくか考えさせられるが、欧米豪州カナダでは想像もできない実態なのである。土日祭日料金が高いことも、18ホールプレーするのに200ドル300ドルもかかることも、高速道路をたった2,3時間走って何千円もかかることも、娯楽施設利用税が掛かることも、子供料金がないことも、公営ゴルフ場も民営ゴルフ場も同じ料金体系であることも、全てガラパゴス島固有の実態なのである。外国でゴルフをした人や高速道路を走った経験がある人は多いはずだが、なぜこんなにも違うのか疑問に思う人が少ないのも不思議なことだ。ここは日本だからと簡単に割り切ってしまうようだが、日本と外国は違うのが当たり前と考えているのかもしれない。日本と外国では違っていて当たり前なことと、同じである方が当たり前のことを協議する場をTPPとするならば、一刻も早く参加した方が良いに決まっている。誰にとって良いかといえば国民や大衆にとってであり、ゴルフに関するならば一般大衆ゴルファーにとってである。決して特定業者、特定団体、特定議員、特定役人にとってではない。

 

国際化とグローバル化

2年ほど前に相撲協会の体質が問われて大騒動したが、今度は柔道連盟の体質が問われて大バトルが始まった。相撲も柔道も日本の伝統スポーツ文化としての歴史を持っている。今では横綱も優勝者も外国人力士が独占しているし、モンゴル出身の力士が圧倒的に強いのをみても国際化したことは明らかだ。それならモンゴル相撲と日本相撲が同じ格闘技かというと実際には大分違うし、欧州出身の力士はレスリングやサンボなど全く別の格闘技から転向しているようだ。だから相撲の場合には相撲が国際化したというより、力士が国際化したというほうが正しい。相撲興行は日本国内だけで開催されているから国際化したとはいえないが、ウランバートル場所とかモスクワ場所、パリ興行とかニューヨーク興行が開催されるようになれば本当に国際化したといえるだろう。

 

相撲に対して柔道は完全に国際化している。世界中いたるところに柔道場があり、世界各国に柔道協会があるうえ世界柔道連盟という国際組織まである。さらに世界統一ルールに従って世界選手権やオリンピック大会が開催されているから、国際化を超えてグローバル化したといってもよいのではないか。つまり同一基準に従って地球規模で行われているからグローバル化である。ところがどうも最近明らかになってきたことは、日本の柔道界の実態が古式豊かな伝統技芸の姿を残したまま存在していて、国際社会どころか現代社会そのものに受け入れがたい状態のようだ。これをガラパゴス化というが、密閉された閉鎖社会で行われている古き慣行は、その世界で常識であっても一般社会では非常識を超えて犯罪行為なのである。事情聴取を受けたり逮捕された関係者に全く責任意識がないところに更なる問題の深さが感じられるのだが。

 

実際に柔道の試合を見ていると、外国選手の闘い方は「エッこれ柔道?」と思うことが時々ある。柔道ってもっと堂々としたもの、礼儀正しいものという先入観があるから違和感を感じるのだが、私の錯覚なのだろうか。この度の騒動は指導員や指導現場から発生したものだが、彼らはみな日本柔道連盟と文部科学大臣が認定した指導資格認定証を掲げている。それでは外国で指導している指導員たちも日本の文部科学大臣の認定証を掲げているのだろうか。そんな話は聞いたことがないし、他にも不思議に思うことがある。鍼灸治療院や整体治療院には、日本柔道連盟と厚生労働大臣が認定した接骨治療師の認定証が掲げてある。接骨治療師が柔道を指導しているとも思えないし、レントゲンも手術室もない治療院で、交通事故や工事現場で起きた複雑骨折の治療ができるとも思えない。果たしてそれを日本柔道連盟や厚生労働大臣が認可して問題ないのだろうか。なにやらウサンクサイ気がする。大臣認定の資格認定証は他にもいっぱい存在するが大丈夫だろうか。TPPの交渉が今年から始まるようだが、国際化からグローバル化に進もうとする時代にあって、日本固有の構造や制度規制を大局的に見直すチャンスではないか。日本固有の伝統文化ならば是非とも守るべきだし、政界・官庁・業界団体の癒着から生まれた利権構造ならば一刻も早く構造改革して規制緩和し、外部の優れた技術や人材を受け入れた方がいいに決まってる。構造改革、規制緩和、TPP参加という言葉の意味はとても深いということを頭に入れておこう。

 

ゴルフの開国

いま世の中がにわかにTPPと騒がしくなってきた。グローバル化が進む中、貿易の自由化を進めて物資やサービスが自由に取引できるようにしようということで、私たち庶民からすれば「えっ!いまさら」という気がする。総理大臣も「平成23年を開国元年にしよう」といって拳を振りかざしているが、昨年一年間にわたって大河ドラマで幕末明治維新の姿を観てきた私たちは、「えっ!いまさら開国?」という素朴な疑問が湧いてくる。

 

そういう私も新年早々「2011年をゴルフ開国元年にしよう」とネット上で力説したものの、ほとんどの人が「えっ!いまさら」と思ったかもしれないという不安が起きてきた。高度情報社会に住んでいる私たちは、何でも知っていると信じていながら実は何も知らないのではないかという不安に変わってくる。
尖閣諸島事件で勇気ある情報公開がなければ、私たちは今も真相を知らないまま「中国と国交断絶しろ!」と拳を振り上げていたかもしれない。

 

私たちゴルフ好きは今も「小遣や年金で毎日ゴルフができたらなぁ」と夢を見続けている。欧米豪州カナダでは1000円前後でゴルフができるのに、何で日本では10倍もするンだろう。素朴な疑問を持つ人はまだいい方で、ほとんどの人は疑問すら持たない。つまり情報鎖国社会に住む私たちは世界の真相を知らされていないから、日本の現状を世界の姿と思い込んでいる。極東の島国に住む私たちは案外、世界の真相を知らされたくないのではないか。

 

ではゴルフ開国を叫ぶとどうなるだろう。TPPと同じように猛烈に反対する人たちが出てくるだろうか。「自由化反対!日本のゴルフ場を守れ」「合理化反対!ゴルフ場の雇用を守れ」「値下げ反対!プレーの安全を守れ」実にもっともらしい口実の反対運動が次から次へと沸き起こりそうな気がしてきた。小遣いや年金で毎日ゴルフができたらというささやかな夢は諸外国では当たり前でも、まだ日本では危険思想なのだろうか。

 

吉田松陰も坂本竜馬も外国に行ってみたいというささやかな夢を抱いて命を落とした。あれから140年も経ったから、もうそんなことは起きないだろうと思うが、歴史は繰り返すともいうから気をつけないと何が起きるか分からない。さすがに海外渡航は自由になったから、開国を叫んで命を落とすくらいなら、格安便を使って『海外ゴルフ三昧旅行』にでも出掛ける方が安全で安上がりかもしれない。