ゴルフTPP

TPPの是非をめぐって世の中が騒がしい。TPPはグローバル時代に先駆けて環太平洋地域を自由貿易圏にして、戦略的同盟条約を結ぼうということらしいが「そんなことされたら先祖代々、段々畑や裏の田んぼで細々と百姓している爺さん婆さんをどうしてくれる」と言われるし、「先のない零細農家を継ぐくらいなら若いうちに開拓民として日本を飛び出した方がましだ」とも言われる。私も含めて世の中の人はそれが自分にとって損か得かで是非を論じるのが普通で、反対派は既得権が侵害される人だし賛成派は新天地を求めている人だ。爪楊枝をくわえてニヤニヤしている人は「俺にゃ関係ねェ」と思っている人に決まってるし、「TPPって何?」っていう人も結構多い 。

 

幕末の世の中も開国か攘夷をめぐって騒がしかったと歴史の本に書いてある。賛成派と反対派は京の河原で斬りあうし、新島襄みたいに日本脱出に成功する人、吉田松陰みたいに脱出に失敗して命を落とす人さまざまだ。「関係ねぇ」と思っている人は雨戸を閉めてひっそりと息を殺していたんだろう。騒ぎが段々大きくなると権力争いに発展し戦争になる。はじめ圧倒的に優勢だった幕府軍は長州軍を蹴散らしていたが、やがて近代兵器で武装した薩長土連合軍の前に降参し、権力の座を明け渡してしまった。自分の立場で賛成しようが反対しようが、歴史回転のエネルギーの前に個人の力はどうすることもできない。
だったら雨戸を閉めて座布団かぶってないで、高いところから世の中どう変わっていくか観察するほうが賢い。

 

老いぼれたはずの井戸木鴻樹が全米シニアプロ選手権優勝という快挙を成し遂げた。日本国内にいてはウダツが上がらないと思ったか、新天地を求めて米国シニアツアーに挑戦し見事な結果を残した。160センチ級の井戸木は「小さな体でも通用することが分かってもらえれば幸せ」と謙虚に語ったというが、サムライの器量は体の大きさではなく魂や肝っ玉の大きさで決まる。だからゴルフの世界でもTPPの時代に打って出る覚悟がないと先細りになることは目に見えている。米国ツアーと欧州ツアーは盛況だが、アジアツアーが振るわないのは日本ツアーの小心翼々とした姿勢と肝っ玉のなさに原因がある。TPPに相乗りして環太平洋ツアー機構に拡大し、アジア新興勢力を巻き込んで米国ツアーや欧州ツアーと勝負したらいいのに。

 

私たち無責任な爪楊枝組は、ネット中継やBS放送で米国ツアーや欧州ツアーを観戦しているから、日本ツアーが物足りなくて仕方がない。米国や欧州の強豪とアジア日本のプロが、環太平洋ツアーで真剣勝負する姿をライブ中継で観れる時代がやってきたと思うとワクワクするが、残念ながらゴルフ界のTPP反対派を斬ってしまわないと、それは実現しない。「ワタシはもう70過ぎたから急いでくれない?」と今は爪楊枝くわえてつぶやいているが、早くしないと「オレの葬儀を先にネット中継しちまうぞ!」と凄みたくもなる。