強かった韓国女子プロ

全米女子オープンゴルフで韓国女性が驚異的なスコアで上位を独占した。優勝者のパクインビは大会三連覇という歴史的偉業まで成し遂げた。韓国女子プロの強さはもはや誰も否定することができないばかりか、世界最強国といって差し支えない。何がそうさせたのか、なぜそうなったのか興味は尽きないが、今のところ私には何も分からない。ただ唖然とするばかりだ。26名が出場して14名が決勝に進出し上位3位を独占している。さらに驚いたことにその3名は全員アンダーパーだった。韓国選手以外は誰もアンダーパーで回れなかったのである。USオープンはUSGAと世界のトッププレーヤーとの真剣勝負であることを考えれば、8アンダーで優勝したことはUSGAが韓国女子プロに大敗したことを意味する。

 

たびたび書いているように1970年代からUSGAはストロークプレー概念の大改革を行い、全てのプレーヤーとコースの真剣勝負を可能にする条件や基準を定めてきた。プレーヤーにはハンディキャップ・インデックスという技量偏差値を、コースにはコースレートとスロープレートという難度偏差値を定めた。そのうえでコース側は挑戦してくるプレーヤーの技量偏差値に対応して、難度偏差値が変えられるようコース設定の条件をポイント化したのである。会場となったニューヨークのサボナックゴルフクラブは、ジャック・ニクラウスとトム・ドークが共同設計した難コースといわれている。ニクラスは難コースを造ることで有名だし、トム・ドークは難コース造りで有名なピート・ダイの弟子だそうだから、聞いただけでウンザリするコースだ。

 

USGAはコース設定に際してアメリカ、イギリス、スウェーデンあたりのトッププレーヤーたちのハンディキャップインデックスを基準にしたに違いない。その証拠に上位三名の韓国選手以外は誰もアンダーパーで回れなかった。韓国プロの技量を過小評価していたのだろう。そもそもUSGAハンディキャップシステムそのものが伝統的に女性に対して優しいから、韓国女性の強さがグローバルスタンダードを超えているのかもしれない。アメリカ女性の強さは音に聞こえているが、韓国女性はそれより遥かに強かった。韓国女性に大敗を喫したUSGAは、レディスの定義を変えなければならない。

 

ゴルフはもともと老若男女誰とでも一緒にプレーできることが特徴だから、男女別々に競技していることが時代遅れなのかもしれない。ティーインググランドの位置を変えるだけで条件は互角になるから、一度やってみればいいのに。そうだ。後発のアジア太平洋ゴルフツアーは、男女混合試合にすれば大和ナデシコたちが欧米の大男たちをヒネル姿が観れるかも知れない。USGAコースマニュアルでは、ロングヒッターに厳しくコース設定することだってお茶の子サイサイなのだから。

 

マネジメントゴルフ

ベテラン谷口徹が「日本プロゴルフ選手権」でまた優勝した。距離があって難度の高い烏山城C.C.は日本の巨匠井上誠一の設計によるが、このコースは井上誠一最後の遺作とも言われている。コースを創設したのは長い間JGA の発展や改革に貢献された田村三作氏だが、日本一のコースづくりを目指していた田村さんが井上誠一を見込んで設計依頼したと聞く。田村さんは毎日散歩をかねてコースを回り、井上誠一の設計思想を大切にしながらも改造に改造を重ね今日の姿にされた。特に上がり三ホール16,17,18番でドラマが演出されるよう、その舞台装置づくりに田村さんの渾身の知恵と情熱が込められている。そんな田村さんはゴルファーや指導者の養成にも深い理解と情熱をもっておられたから、この烏山城C.C.からどれだけ多くの人材やトッププレーヤーが育ったか数え切れない。だから日本のゴルフメッカといっても差し支えない。

 

アメリカ型科学技術ゴルフがパワーゴルフからマネジメントゴルフに姿を変えていた裏舞台では、USGAがハンディキャップシステムの大改革を行っていた。つまりストロークプレーはプレーヤーとコースのホールマッチという思想に基づいて、プレーヤー側の技量偏差値をハンディキャップインデックスと言う概念で、コース側の難度偏差値をコースレートとスロープレートという概念で捉えるようになってきた。この概念から『孫子の兵法』が説く「敵を知り己を知れば百戦これ危うからず哉」という現代マネジメントゴルフの思想が生まれてきた。マネジメントゴルフをするには、コース側もUSGAハンディキャップシステムによるUSGAコースレート・スロープレートを導入しなければならないが、田村さんはJGAより10年以上も早くUSGAシステムを導入している。

 

優勝した谷口徹は米国PGAツアーを戦ってきている歴戦の古参プロだ。本人も言うようにショットは逆球ばかり出て調子は最悪だったようだ。自分の調子と対戦相手となるコースのコンディションを、どこまで知っていたかがマネジメントゴルフの勝負の決め手となる。新聞によると谷口は、早朝コース委員がボールを転がしてグリーンスピードを計っているところを偵察し、敵情を知ったうえで作戦を立てたという。コース情報を収集して自分の最適パフォーマンスを適応させることをコースマネジメントというが、『孫子の兵法』を実践して勝った古参谷口徹と、バンザイ突撃を繰り返して玉砕した若武者石川遼の烏山城攻防戦を、天国にいる田村さんはどんな思いで観戦されたか是非とも聞いてみたい。最新長尺クラブをマン振りして、玉砕に玉砕を重ねる我ら凡人ゴルファーや若武者プロは、もっとマネジメントゴルフを勉強するか、谷口プロの爪の垢でも煎じて飲む方がきっと「早い安いうまい」にきまっている。

 

コースマネジメント

1979年アメリカセミナーでコースマネジメントという言葉を初めて聞いたがコース管理のことだとばかり思っていたら、講師は私たちをコースに連れて行って局面毎の状況判断要素を指導してくれた。「なーんだ、コースガイダンスのことか」と思ったのは早合点で、その頃アメリカではゴルフイノベーションが始ったばかりで、田舎ザムライにはアメリカの志を理解するには遠く及ばなかったようである。USGA(全米ゴルフ協会)ではコースレート査定とハンディキャップ制度の抜本的改革研究に乗り出していたし、米国ゴルフ設計家協会ではあらゆるゴルファーが本当のゴルフを楽しめるようコース設計に画期的変革をもたらそうとしていた。同じコースで上級者と初中級者がそれぞれの楽しさを追求できるコースデザインの探求である。衛星放送で中継されるコースの美しさは目を奪われるようであるが、美観と戦略性と経済性を同時実現した現代の米国ゴルフ場開発技術は賞賛に値する。

 

孫子の兵法に「敵を知り己を知れば百戦これ危うからずや」という戒めがあるが、ストロークプレーではコースのスロープを知ることが敵を知ること、最新インデックスを承知していることが己を知ることに当たる。スロープもインデックスも分からず「えっ!それってなに?」と言うと「敵を知らず己を知らざれば百戦これ危うし」ということになる。若ザムライには知略に長け礼節を重んじ勇敢であって欲しいと思うのは私一人だけではあるまい。若者自身も世界に通用する日本人のアイデンティティを持ちたいと願っているようだが、日本人は日本人を自覚するだけで立派なアイデンティティをもつことになる。正直・律儀・礼節が日本人の三大特性で意識すればDNAが働いてくれるはずだ。このDNAはゴルファーにとっても欠かすことのできない特性だから、基本的にゴルフは日本人に向いている。しかし闘うとなれば更に知略が必要となる。

 

現代マネジメントゴルフをするには、三大特性に知略が伴わなければ突撃と玉砕を繰り返すことになるが、私たちの先祖には楠正成、真田雪村、東郷平八郎など知略に長けたサムライもいる。コースマネジメントとは知略をもってコースと闘うことを意味するから、難しいコースに挑戦するにはまず敵を知り己を知ることから始めなくてはならない。90%以上がホームコースを持たないツアゴルファーになった現代では、闘う相手となるコースの情報をどれだけ持ち、いかに作戦を立てたかで結果が決まる。コースマネジメントの重要性は益々高まるはずだが、私たちはやっとグローバルワールドの入口を見つけたばかりだ。