1998年、日本を除く世界各国は共通ハンディキャップ制度に踏み切った。そう「日本を除く」だから欧米豪州はもちろんのこと、韓国・台湾・中国・インド・フィリピン・マレーシアなど、アジア諸国も含む世界のゴルフ国が一体となって踏み切ったという意味だ。ひとことでいえばゴルフがグローバル化したため、世界のゴルフ国がグローバルスタンダードを採用したことを意味する。「なんだ、それだけのことか。自分には関係ない」と思ったとすれば、その人は明治維新後もちょんまげ姿に刀を差して高楊枝をくわえた素浪人と同じだ。封建制度が崩壊して身分制度が変わっても、平然として旧制度に生きていられる豪傑には違いないが、周囲は少しもカッコイイとは思わない。
私たち日本人がワールドゴルファーとして世界に受け入れられるには、誰の目にもスマートなゴルファーでなければならない。まずエチケットルールから始まってハンディキャップが取得できるまで、ゴルファーとしての品格技量を身に付けなければならないが、それにはまず技量以前のプレーマナーが問われる。私たちが社会人である以上、挨拶をするにも会話をするにも食事をするにも、相手を不愉快にさせない最低限のマナーが要求される。ゴルフも同じことでエチケットルールをわきまえ、他人に迷惑をかけずにセルフプレーできることが求められる。国際社会では礼儀正しいと評価される日本人が、ゴルファーになるとなぜワーストランキングに入ってしまうのだろうか。
日本のゴルフは戦後の高度経済成長の波に乗って発展したから、どうしても成金ゴルフの姿が残ってしまった。その典型がキャディー付き接待ゴルフである。ゴルフ場は接待場、キャディーは接待係の役を負っているから、ゴルファーのマナーは問われずに、むしろ接待場と接待係のマナーが問われた。お客様は神様だから、どんな横柄でわがままな振る舞いも許される環境が生まれた。ここから世間知らずの田舎ザムライが大量に生み出されたようだが、今流に言えば「品格無きゴルファー」ということになり、私もその一人かと思うと寂しい。
最近は客不足に悩むゴルフ場を「さすらいゴルファー」が荒らしまわっていると聞く。ネットで安いゴルフ場を探し、コンペと称して賞品や景品をたかり、更なる割引や割戻しを要求する。そういうコンペに限って金を賭けるから、必要以上に慎重になってハーフ3時間以上のスロープレーになる。マーシャルに注意されると反抗的になり、二度と来るかと悪態つく厄介者だが、これも景気低迷が生んだ「品格なきニューゴルファー」か。ゴルファーにもグローバルスタンダードが必要になったようだが、「田舎ザムライ」や「さすらいゴルファー」のローカルスタンダードは、世界で全く通用しないことだけは承知しておかないと、日本人の評価が世界的に高まっている時だけにまずい。
全英女子オープンが終ってみればアジアの時代を告げる結果に終った。
以前から21世紀はアジアの時代と言われてきたが、ゴルフの世界にもアジアの時代が来たことを痛切に感じる。20世紀はアジアの中でも日本だけが突出していて、日本はアジアの一員ではないかのように言われてきたが、20世紀末から日本の地位や力が相対的に弱まり、中国・韓国・台湾などアジアの地位や力が強くなってきたことが誰の目にも明らかだ。全英女子オープンの結果を見ると、優勝ヤニ・ツェンが台湾選手、ベストテンに韓国選手が4人いてアジア選手が半数を占める。上位20位を見ると韓国選手3名に日本選手1名が加わり合計9名がアジア選手で、その内訳はアジア勢9名に対して欧州勢7名、米国勢4名という結果だった。数字が如実にアジアの時代を告げている。アジア勢9名の中に日本選手一人というのは寂しい気がするが、トーナメントスポンサーは日本企業(リコー)というのも考えさせられる。
21世紀に入って日本は、量的成長から質的成長に変わらなければいけないと言われ続けながら、未だに量的成長に拘っている点がないだろうか。全英女子オープンを見終わってそんな気がしたが、舞台を支えているのは日本でその舞台で活躍するのはアジア選手。これが21世紀はアジアの時代といわれる舞台構造ではないか。世界中がアジアの成長に期待を寄せているときに、今まで通り日本がアジアのリーダーで世界一でなければならないと思うのは、いささか時代錯誤で傲慢ではないかという気がした。これからの日本はアジア発展を支える礎石となるべきで、いつまでも舞台の主役を務めようなどと考えてはいけないのではないか。スポーツの世界では出場選手の数を競う、優勝回数を争う、メダル獲得数を競う。経済の世界ではGDPを競う、貿易量を競う、成長率を誇る時代ではない。世界の安定やアジアの発展のために、日本は何をしなければいけないかを考える時代がやってきたようだ。
3.11大震災のあと世界中から「がんばれ日本!」のコールが起きているが、その意味は日本の忍耐強い頑張りで世界に平和と秩序をもたらせて欲しい、発展と安定を実現して欲しいということではないのか。世界唯一の被爆国日本は平和憲法と非核三原則を守っている。その被爆国日本が原発事故でまた被曝した。その日本に今度こそ核廃絶のリーダーになって欲しいというコールが世界中から起きていると考えるべきではないのか。原爆を何発もっているか、原子力潜水艦や空母を何隻もっているか、原子力発電が何基あるかという量や力を競い合う時代が終わり、世界の平和や安定を如何にして実現するかが問われる時代に、日本にはそのリーダーになる資格も能力もある。「がんばれ日本!
5月第二週に行われたメジャートーナメント「ザ・プレーヤーズ・チャンピオンシップ」で、韓国プロ K.J.チョイがプレーオフを制して優勝した。この優勝には深い意味があったように思う。
昨年四月、私生活上のスキャンダルでボコボコにされたタイガー・ウッズが、再起を図って「マスターズ」に出場したとき、ウッズに失望したファンや反感を持つ白人たちが、ヤジを飛ばして試合を妨害するのではないかと懸念されていた。そんな心配がある中で、マスターズ運営委員会はウッズの同伴プレーヤーにK.J.チョイを選んだことは実に賢明な策だった。K.J.チョイといえば米国PGAツアーの中でも屈指の人格者といわれる韓国ベテランプロだ。このブログでも書いたとおり、当時は傷だらけの王者タイガー・ウッズと一緒にプレーするのは誰もが嫌がった。そんな中で一緒にプレーすることになったK.J.チョイは、タイガー・ウッズの守護神の如き形相で寄り添い、四日間ウッズを守り通した。この功績に感謝したのはウッズ自身と運営委員会だけだったかもしれないが、間違いなくゴルフ史に残る功績を残したに違いない。このとき私は「この男こそアジアの帝王にふさわしい」と思った。
K.J.チョイは風貌体格共にアジアの代表といえる。がっちりした四角い身体と無骨な面構えは、フェアウェイやグリーンよりも、中国大陸やモンゴル平原の方が似合いそうだ。日本でも彼にそっくりな像が寺の山門に仁王立ちしている。
眼光鋭い無骨な顔は終始ニコリともせず、ひたすらゴルフを見つめている。大きな拍手や声援に対しても黙礼する程度で、何者にも媚びない毅然とした態度は、戦いに命を懸ける武人の姿に映る。
ザ・プレーヤーズチャンピオンシップ最終日、厳しい戦いの末にK.J.チョイ(41)とデビッドトムズ(43)二人の決戦になったが、プレーオフになった瞬間チョイは終始リードを保ってきたトムズに歩み寄り、肩を叩いてトムズを慰め健闘を讃えたがその態度は実に紳士的だった。戦いの中にも常に敵に惻隠の情を示すチョイの姿勢に、武士道精神そのものを感じる。その堂々とした落ち着きと風格は、プレーオフが始る前からトムズを圧倒していた。恐らく多くの中立的な観戦者はチョイの勝利を予感したはずだ。特にゴルフというスポーツゲームが、技量や闘争心だけで勝てない競技であることは誰もが分かっている。この試合にも世界中から数多くの若手ホープが出場したが、結局はアラフォー同士の優勝争いになったし、精神的に充実したK.J.チョイが勝利を収めた。昨年のマスターズで彼に守ってもらった帝王タイガー・ウッズは、初日ハーフで42を叩き棄権した。
精神不安定に陥っている帝王は、既に戦うこともできないほどボロボロになってしまったのだろうか。この試合で帝王は世界ランキング8位に転落したが、代わってK.J.チョイは15位に浮上し、アジアの帝王と呼べる風格を示した。
いま世界中から「がんばれ日本!」のコールが起きている。先週、北京を訪れた際に多くの中国人から励まされたが、彼らは真剣に心配してくれていることが言葉や表情から窺い知ることができた。反日教育を受けている君達がどうして日本や日本人を心配してくれるのか不思議に思って、日本の実情に詳しい中国人に聞いてみて驚いた。中国では国を挙げて反日教育をしているなどというのは、日本のマスコミがでっちあげた真っ赤な嘘だというのである。もし事実なら、周りにいる若者達に聞いてみるがいいという。早速ゴルフ練習場にいる若者達に聞いてみると、キョトンとした顔で笑っている。それどころか日本に行きたかったのに、大津波と放射能で日本に行けなくなってしまったのが残念だという。それも流暢な日本語で語られてはビックリ仰天である。彼らにとって憧れの日本が、災害でめちゃくちゃになって失ったのは本当に残念らしい。一番乗りで日本に救援隊を送った中国政府に、彼らは心から拍手を贈ったというのは嘘ではなさそうだ。
多くの知り合いの中国人を思い出してみると、私たち日本人に対して反抗的な人は一人もいないし、それどころか大変親しみがもてる。瀋陽から嫁いできた甥の御嫁さんなんか、全身で喜びを表現していて瀬戸の花嫁のようでかわいい。
確かに言われてみれば、反日教育で育った若者が日本に憧れを抱くはずがないし、周りに反日的な若者が一人や二人いてもおかしくない。少なくとも私の周りには一人もいない。一体誰が情報操作しているというのだ。私たち日本人は最近マスコミ情報や政府発表を信用しなくなっている。インターネットが普及する以前に、私たちはずっとおかしいと思い続けているし、尖閣諸島事件の映像流失から決定的に疑い始めた。原発事故に至っては本当のことは何も語られていないと思っているし、政府は何の対策もしていないと確信している。
アジアで最初に日本で咲いたゴルフ文化の花は段々しぼみかけているが、今度の大地震で本当に枯れてしまわないか心配になってきた。国際舞台では韓国人プロが大活躍しているのに日本人プロは今ひとつさえない。中国ではゴルフが日増しに盛んになってきているから、中国人プロが国際舞台に踊り出てくるのは時間の問題だろう。既に「NGFワールドカレッジ」に二人の中国人女性が入学しているが、提出される日本語レポートの優秀さに驚いている。彼らが本気になって勉強し練習し始めたら、経済だけでなくゴルフの世界でも日本を追い越すかも入れない。既に中国で開催されるワールドトーナメントは完全に日本を凌駕した。このままでは間違いなくゴルフ二等国に転落するが、復活再生する方法はあるのだから、とにかく「がんばれ日本!」だ。
2010年マスターズで韓国勢の活躍は素晴らしかった。アンソニー・キムは米国籍ではあるが、彼も含めると上位10名中3名が韓国人だった。彼らは強いだけでなくプレーマナーの良いことと、常に堂々としていることに感心させられる。彼らは何処で何を学んであのようなプロになったのか興味は尽きないが、K.J.チョイなどは敬虔なクリスチャンで、ボビー・ジョーンズと同じように常に「祈りの人」であることは良く知られている。そのK.J.チョイが米国中から集中砲火をあびた手負いの虎・タイガー・ウッズを四日間にわたり影武者のように支えた姿は、まさに「騎士道精神」を感じさせる美談としてマスターズ史に残るのではないか。
偶然か神の哀れみか、傷だらけのタイガーは米国ツアーでも屈指の人格者といわれるK.J.チョイと四日間プレーできてよかった。予選二日間は委員会の配慮があったとしても、決勝ラウンドは成績順に組み合わせが決まるから、よほど実力があるか神の意志が働かない限りありえないことだ。三日目が終ったとき、最終日もK.J.チョイと回ることが決まって、タイガーは本当に嬉しそうな顔で握手を求めていたが、表情は孤立するタイガーの心境を表わしているようにもみえた。PGAツアーは何といっても未だ白人中心社会であるから、アジア・アフリカの混血タイガー・ウッズに対する風当たりは相当強いはずである。同じアジア人のK.J.チョイが、タイガーの風除けのようにして堂々とプレーする姿と毅然とした態度は、まるで風神・雷神のようにも見えて頼もしくも思えた。
ミケルソンに対する万雷の拍手とスタンディングオベーションはマスターズという舞台にふさわしいものだった。ウッズに対する冷静な拍手はマスターズの歴史と伝統に支えられる品格を感じさせるものだった。K.J.チョイはサンデーバックナインに入って優勝するかもしれない勢いを見せたときには少し注目されかけたが、多くはウッズの脇役として時々画面に映る程度だった。今回のマスターズでK.J.チョイが果たした役割をどれだけの人が評価したか分からないが、彼に絶大な拍手を贈り心から感謝したのはタイガー・ウッズではなかったかという気がしてならない。もし映画祭のように助演賞が与えられるとすればK.J.チョイが最有力候補になるだろうが、一見スキャンダルに汚されそうになった2010年マスターズも、例年に負けない内容のトーナメントとして幕を閉じた。21世紀はアジアの時代といわれているが、今後アジア太平洋ツアーを支えるのは日本のプロではなく、韓国のプロに違いないという印章を強く受けたのは、私一人ではなかったかもしれない。