では基本とは何か 3
基本は昔からあったわけではない。永年にわたりゴルフに基本はないと言われ続けてきた。理由は簡単で、1970年代まではクラブが手作りの手工芸品でだったためにスペックがバラバラで、クラブ毎にスイングを変えなければならなかったからである。ほとんどの人が親か先輩に譲ってもらったクラブを後生大事に使っていたから、そのクラブに慣れるまで練習場に通ってボールを打ち、そのクラブに合ったスイングづくりをしていたのである。クラブセットも同一メーカーとは限らず複数のメーカー品で構成され、各クラブスペックはバラバラなのが当たり前だった。だからどうしても打てないクラブが何本かあって、得意なクラブと不得意なクラブがあるのは当然とされた。今でもプロゴルファーのプロフィールには得意クラブ○○と書いてあるのはその名残りである。
だいたい達人のクラブは、あちこちグラインダーで削った後や鉛が張ってあって、戦場帰りの傷痍軍人のようだった。クラブを見ればその人の腕前が分かると言われたが、きれいなクラブを持っている人は自分のスイングができていないか、もったいなくて削ることができなかった人である。ケニー・スミスによってバランス計が作られたとき、試しに名手ボビー・ジョーンズの使用クラブを計ってみたところ、全てのクラブが同じバランスだったという伝説がある。それにヒントを得たせいか、ケニー・スミスは「貴方だけのクラブをつくります」と宣伝していたが値段はめっぽう高かった。しかし、ケニー・スミスを使っている人に名手はいなかったように思う。自分の名前が刻まれた高価なクラブを切ったり張ったりできる人など、めったにいなかったからだろう。
1976年ゲーリーワイレンが、PGAマガジンに「ボールフライトロウ」を発表してから米国に本格的なスイングイノベーションが起こり、ワンスイングの探求が始った。ワンスイングとは各プレーヤー固有の一定スイングという意味である。記憶では私たちが最初にワンスイングを見たのは、NHKが放映したジャック・ニクラウスの特集番組からである。ドライバーからウェッジまで全く同じスイングテンポで打つ二クラスの技術は基本と言うより芸術だった。なぜドライバーからウェッジまで全てのクラブを同じスイングで打てるのか、多くの人が唖然として見つめたものである。言うまでもなくワンスイングを可能にしたのはクラブ製造技術の進歩であるが、あくまでも工業技術の進歩で規格大量生産が可能になったからある。同じスペック性能のクラブを大量に製造することができるようになったからといって、決してゴルフが進化したわけではない。基本に則ったワンスイングが完成していなければ規格工業製品は役に立たない。
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