マネジメントゴルフの凄さ
1月30日米国サンディエゴ郊外のトーリーパインCCで行われた「ファーマーズ・インシュランス・トーナメント」の決勝最終ホールで物凄い光景がみられた。
最終組の前を回っていたババ・ワトソンがバンカーからピン上5メートルの難しいところに寄せ、その難しい下りパットを決めて16アンダーとし、優勝を殆んど手中に収めたかに見えた。最終組のフィル・ミケルソンは14アンダーで最終ロングホールの第二打を池の手前にレイアップして、終始ババ・ワトソンの様子を見ていたが、さすがに第三打を直接カップインしてプレーオフに持ち込む意欲を断たれたかにも見えた。
ところがミケルソンは打順が来るやグリーンまで歩いて来てどこにボールを落とせばカップインするか丹念に調べているではないか。じっくりとグリーン面を観察し、落とし所を見定めたうえでキャディーを呼んでピンを持って立たせ、ショットし終わったらすぐピンを抜くように命じているようである。72ヤードのアプローチショットを絶対カップインさせるという気迫に満ちた雰囲気がみなぎり、ミケルソンの真剣な様子に大観衆は水を打ったように静まり返って固唾を呑んだ。二打差をつけて待ち受けるババ・ワトソンも、きっと心臓が止まる思いがしたのではないか。
いま世界ツアーではピンポイントでターゲットを狙ってくるほど精緻なゴルフをしている。現代のゴルフは徹底したマネジメントサイエンスに基づいてヤード刻みに距離を測定し、コースやグリーンに関する情報を収集し、スピンコントロールされた変幻自在の弾道を放って戦略的に挑戦する。だからミケルソンの最終ホールのプレーは単なるギャラリーを沸かせるスタンドプレーではない。本人はもちろんババ・ワトソンもギャラリーもテレビ視聴者も、全員がマネジメントされたショットの成功確率を知っているから見守ったのである。
日本が情報鎖国している間に世界のゴルフはどんどん進化してしまった。あんなに保守的だった英国や南アフリカのゴルフもどんどん米国の科学技術ゴルフを導入しているし、韓国のゴルファーも日本の上空を通過して直接米国に渡って現代ゴルフを学んでいる。先週の「ファーマーズ・インシュランス」一日目、二日目とも韓国人選手が首位の座を窺っていたことも、日本人選手が二人とも予選落ちしたことも、どうやら偶然とはいえない気がする。日本のゴルフに明治維新が起きたと思って改めて世界に目を向けてショットすれば、きっと文明開化の音がするに違いない。
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