ゴルフ再生への道 1-05 強者どもが夢の跡

90年代に入るや日銀は突如として金融引締政策をとり総量規制の名の下に新規融資をストップしたからたまらない。ハードランディングという急降下着陸をしたために乗客も積荷も吹っ飛ばされてしまったのだ。建設途上の城は廃墟と化し一国一城の主となったゴルフ場オーナーも兵糧を絶たれて真っ青になった。

会員権発行が打出のコズチだった積りが、コズチを振っても振っても小判は出てこない。「ゴルフ場完成後はビジネスにならない」といわれていたのが現実となってしまったのだ。ギンギラギンのクラブハウスやコースを維持するには莫大な経費が掛かる。来場者とりわけ上客だった社用族ビジターが激減する中でビジネストレーニングされていない有り余る社員をどう取り扱うか、全く解決の道が閉ざされたまま時間だけが経過していった。

 

時代が逆流し始めると次から次へと想定外の事態が発生してくる。株の暴落に連動して会員権相場が暴落し始めたため、5枚も10枚も会員権証券を持っている人は慌てて売り逃げしようとしたから益々暴落に拍車を掛けることになる。

高額会員権は真っ先に額面割れを起こし、値上がりを見越してローンで買った人は取り返しの付かない事態に陥ったことに顔面蒼白になった。退職金をはたいて買った人、自宅担保で買った人、取引銀行から押し付けられて買った事業経営者など、世界一の金満王国ジパングに何が起きたのか誰も理解できなかったのは当然だ。会員権を買うといえば銀行はニコニコして即日融資してくれたではないか、入会パンフレットには政財界の大物や有名人が名を連ねているではないか。こうしてゴルフに人生の夢を掛けた人たちを目覚めのない悪夢の中に引きずり込んでいったのである。

 

ゴルフ場側の悪夢も益々恐ろしい事態になっていった。10年据え置きの会員権が次々と償還期を迎え始めていたからゴルフ場経営者は肝を冷やした。60年代、70年代に完成したゴルフ場は預託金額面が安かったので額面割れすることは余りなかったが、80年代に完成したゴルフ場は額面が高額だっただけに軒並み額面割れしていた。悪夢にうなされていた会員権所有者が預託金返還を求めて殺到したから悪夢同士の大混乱に陥ったのである。10年経過したから預託金を返してくれといわれても、お金はギンギラギンのゴルフ場建設に使ってしまったのだから残っているわけがない。銀行からローン返済を迫られる会員と、会員から預託金返還を迫られるゴルフ場との間に仁義なき戦いが始まった。財産形成と夢のような老後のゴルフライフを約束してくれるはずだったゴルフ場オーナーに対して、裏切られたぶん憎さ百倍の集団訴訟が全国各地に繰り広げられていったが、所詮は領主と領民の争いと同じで最後は殺し合いになることは歴史が証明していた。

 

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