ゴルフ再生への道 1-04 ゴルフ場は金融ビジネス

「ゴルフ場は完成するまでがビジネスで、完成後はビジネスにならない」と良くいわれてきた。確かに宮殿や別荘、公園や庭園で儲けようとして建設する人はいない。どんなにカネを掛けても、それで商売はできない。ゴルフ場は建設段階で大変な作業と時間が掛かるが、そこに多額の資金が動くからビジネスが発生するという意味だ。ではどんなビジネスか。不動産の証券化という新しい金融ビジネスである。米国ゴルフ界の人に預託会員権制度をいくら説明しても皆目理解することはできない。日本の会員制クラブと欧米の会員制プライベートクラブは性質も概念も異なるから根本から理解できないようである。プライベートクラブは宗教信条や価値観を等しくする仲間や同士が資金や責任を負担し合いながら厳格な規律の下に運営されるコミュニティだから、損得勘定で入退会できる組織ではない。日本の会員制クラブは儲かりそうなら入会するし、損しそうなら退会できる。

 

日本の会員制度は入会金と預託金の二重構造になっていて、入会金は名目どおりクラブ会員になるための費用で退会しても返還されない。一方の預託金は入会条件として付帯する投機証券の性格を持った保証金制度になっていて、10年据置無利息ながら、そのときの相場で売却できる仕組みになっている。金儲けしながらゴルフができる日本固有の金融ビジネスモデルを考案したのである。このシステムは1960年代に考案され、70年代と80年代にブームが起きたが、会員募集という名の証券販売方法は縁故募集・一次募集・二次募集・三次募集・完成募集と通常五段階に及び予定販売金額を事前提示して投機意欲を刺激していたから、ゴルフに興味のない人も金儲けには誘惑された。実際に100万円で買った会員権が500万円になった人、500万円で買って3000万円になった人が現れると、誰だってバスに乗り遅れたくない気分になるものだ。

 

ゴルフ場建設が本業より儲かる金融ビジネスだとなれば経営多角化の名の下に大手企業まで参入するようになるから、60年代に3億円でできたゴルフ場が70年代には30億に、80年代には300億円になった。本来は競技場であるゴルフ場が金融商品化してからは機能や経済性を無視して見た目の豪華さ、設計者や関係者の知名度などを売り物にするようになった。このような時代背景の中で完成オープン後の経営や採算性など無視したゴルフビジネスが展開されていったが、90年代に入るや一気にそのツケが回り新設ゴルフ場が次々不良資産化して9兆円近い損失を出してしまった。同時に大衆ゴルファーが抱いた財形の夢も泡と化し、第二ユニットの民事再生法によって会員権はゴミ屑のように処理されていったが、金融政策という点火装置に消化装置、民事再生法という焼跡処理装置が用意されたこと、第三ユニットにスポンサーと称するサルベージ屋が待ち受けていたことに気付くのは、外資系ハゲタカファンドが物の見事に大儲けして立ち去った後のことである。

 

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