アマチュアゴルフ

2010年米国PGA公式戦が終了した。40歳のジム・ヒューリックがフェデックス・プレーオフシリーズ最終戦に優勝し135万ドルを獲得すると同時に年間総合優勝も決めて賞金1000万ドルも獲得した。ビジェイシン、タイガー・ウッズに次いで史上三代目だそうだがイヤハヤ驚きました。1年間でアメリカ大統領報酬の30年分を稼いだそうで、荒稼ぎ振りはハゲタカファンド顔負け。アメリカツアーも本来厳しい世界で、稼げないものはガソリンスタンドやコンビニエンスストアでアルバイトをしながら旅費を稼ぎ、安モーテルやキャンピングカーに泊まってツアプレーヤー(旅芸人)を続けている。だからギャンブラー(博徒)ともいう。プロトーナメントは生活を賭けた大バクチだから「勝者金満、敗者難民」「一将功成り万骨枯る」を地で行く優勝劣敗の世界だ。命懸けの真剣勝負だから観るものにとっては面白いが、決してアマチュアが見習ってはいけないゴルファーの姿でもある。昨年の覇者タイガー・ウッズは膝を壊し、家庭を壊し、ファンを裏切り、精神を病んだ。ゴルフは全てのスポーツの中でも唯一、人間の善意に全てを託している。善意とは礼節、誠実、正直、謙虚、寛容など人間が本来持っていないものを周囲に示す心だ。だから善意は教育され、忠告され、訓練されないと身に付かない。身についていないものを「付焼刃」というが、ちょっとしたことで簡単にこぼれ落ちてしまう存在でもある。

 

プロツアーを見ていて大変気がかりなことは、確かにプレーヤーは育っているがゴルファーが育っていないことで、カネ稼ぎに始ってカネ稼ぎに終るプロツアーのシステムは「勝者金満、敗者難民」の金融資本主義と同じシステムだ。だから、このままプロツアーがリーマンブラザースと同じようにバブル崩壊で終らなければよいがと思う。もうひとつ心配なことはアマチュアゴルファーがプロゴルファーを見習っていることだ。10代,20代の若者に闘争心を植え付けることは簡単だが、善意を育てることは時間が掛かる。アマチュアゴルファーが若いスタープレーヤーに憧れるのも結構だが、彼らは商業資本主義の広告塔であって使い捨て商品であることを忘れてはならない。私たちにとってゴルフは人生を豊かにする生涯スポーツそのものだし、青少年にとっては倫理道徳教育プログラムであることも決して忘れてはならない。昔から「ゴルフから得たものはゴルフに返せ」と言われてきた。でもゴルフから得るものは余りにも多過ぎて一生かかっても返しきれない。アマチュアゴルフには私たちの魂を健康にする「ゴルフマインド」という成分が含まれていて、多少の経済負担が伴っても余りある効能がある。アマチュアは間違っても精神を病んだり、魂を害するようなゴルフを見習ってはならない。

 

ゴルフの神髄

2010年4月18日サウスカロライナ州ハーバータウン・ゴルフリンクスで開催されたPGAツアー「ベリゾンヘリテージ」最終ホールで素晴らしいプレーが見られた。13アンダー同士でプレーオフになったジム・フューリック(米)とブライアン・デービス(英)は延長ひとホール目の第二打で決着が付くという珍しい幕切れに終ったが、ゴルフ史に残る美談になるのではないか。恐らく会場の観客は何がなんだか分からないうちに試合が終わり、ゴルフを知らないテレビ観戦者は何が起きたかも理解できなかったに違いない。

 

延長ひとホール目は最終18番ホールで行われたが、18番ホール左サイドは海岸で、グリーンの左側もそのまま砂地に雑草が生えたハザードになっている。ピンは危険な左サイドに立っており、デービスはセカンドショットを積極的にピンを狙っていったが、僅か左にそれて海辺のハザードに落としてしまった。優勝経験豊富なフューリックは、ピンに遠い右サイドの安全な場所にボールを運んだ。もっぱら観客の関心はデービスのボールが打てる場所にあるかどうかだったが、テレビカメラがアップした様子では、雑草と枯れ枝の間にあるボールは何とか打てそうである。数分間観察したデービスは意を決して、ピンの方向に難しいショットを敢行した。ピンより少しオーバーしたが難しいショットを成功させて観客は万雷の拍手を贈った。しかし当のデービスは深刻な顔をして競技委員を呼んで何か言っている。競技委員はトーキーで大会本部と何か話し合っている。フューリックも観客も何がなんだか分からない数分間の静寂が続き、やがて競技は続行された。フューリックが第三打をカップから数十センチに寄せたあと、デービスは第四打を打った途端歩きだしてヒューリックに握手を求めた。ハザード内で枯れ枝に触れたとして自ら二罰打を課したからだ。

 

ゴルフの神髄は「あるがままに打つ」ことと「自己審判制度」にある。違反行為は自ら判定して自分を罰しなくてならない。ゴルフ規則によればハザード内でアドレスしたときクラブヘッドは何物にも触れてはならず、違反すれば二打のペナルティーを課さなければならない。デービスのハザードからの第三打は誰の目にも鮮やかなショットだったが、デービス本人は「打つ時に何かに触れた」と主張して止まない。呼ばれた競技委員は大会本部に連絡を取り、テレビ局のカメラを再生してデービスの主張を証明したようだ。対戦相手のヒューリックが何も言わないのに、デービス自身が自分の違反を証明させて自ら敗北を決定した珍しい出来事であったが、それは久し振りにゴルフの神髄に触れる爽やかなフェアプレーとして世界中のゴルフファンを感動させた。