秘訣は基本の反復練習

「秘訣は基本の反復練習」というと、なぜ私たちはがっかりするのだろう。一口で言えば退屈でつまらないからだ。私は高校生のとき卓球部に入ってマラソンと素振りの毎日にウンザリし、大学生のとき講道館に通って受身と打込の反復にガッカリした経験がある。途中で嫌気が差し浮気を起こして近所の合気道塾に通ったら、道場師範に「武芸の道は守破離」と言われた。先ずは徹底的に基本を守り、熟して基本を破り、離れて「動けば即ワザ」の域に達するという意味らしい。武芸はすべて礼にはじまり礼におわる。礼を忘れれば「即ゲンコ」だし稽古は徹底的に基本の繰り返しだ。基本の型が身について技となり、礼が身について人をつくるのだそうだ。若さゆえ「古臭い指導法」と思っていたが、アメリカの科学的指導法を研究するにつれ、日本の伝統的指導法が案外と科学的であることに気が付いた。

 

アメリカの指導法は論理的であり、日本の指導法は画一的である。アメリカの指導員は目標やプロセス、原理や原則を説明して学習者の納得を得ようとする。日本の指導員は問答無用「オレがやってきたようにオマエもその通りやれ」と強制する。しかしどちらも言わんとすることは「基本の反復こそ秘訣だ」と。
なぜならば基本とは先人たちが試行錯誤、紆余曲折して辿り着いた目標に至るまでの最短距離であり、最適方法だからである。日本の伝統武芸は歴史が長いから無駄が全て取り除かれ、もう改良の余地がないほどワザが集約されている。どこにも隙がなく不備がないから黙って従わざるを得ない。結局、黙々と基本を反復した者が達人になるシステムになっている。なんのことはない『テイラーの科学的管理法』と同じではないか。基本を繰り返し練習することをアメリカでは局面ごとにドリル・プラクティス・エクササイズなどに分けて総体的にトレーニングといっている。講道館では局面ごとに受身・打込・乱取などに分けて総体的に稽古といっていた。

 

ゴルフも歴史の長さにおいては日本の伝統武芸と変わらない。日本の教育現場は早くから伝統武芸を教育課目に導入してきたが、ゴルフは導入しなかった。欧米人にとってゴルフは西洋精神を支える伝統技芸だから、ゴルフを教育基盤に導入し、基本を反復訓練して人間の魂を形成した。日本人にとって武道は東洋精神を支える伝統技芸だから、武道を教育基盤に導入し基本を反復稽古して人間の魂を形成してきた。どちらも「礼にはじまり礼におわる」ことを共通の基本とし、人間形成の秘訣としてきたようだ。

 

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