ゴルフ再生への道 1-14 シルバータウンとゴルフクラブ

最終人生をどんな所で暮らすかは高齢化社会の最重要課題である。現状を見ると余り夢や希望が見出せない。高齢者3000万人のうち20%は孤独な一人暮らし、40%は老夫婦暮らし、残り40%は老人ホームか同居生活か、病院暮しか介護施設暮しか、自主性のない生活を強いられている。老後を楽しくはつらつと生きることができる社会の実現は福祉国家の理想に違いない。国の福祉政策は現実問題の対策に追われて夢も希望も理想も失っているから、終着駅が見えてきた暇老人が暇つぶしに理想を求めて夢と希望を追いかけたらどうだろうか。老後の生活環境は如何にあるべきか、年寄自身が身に染みて分かっているのだから、国政や若者任せにしないで自ら考え理想環境を創造すべきだ。

 

3000万人といえばサウジアラビヤ、マレーシア、ペルーの人口に匹敵する数だから結束すれば一国をなす力がある。高齢とはいえ相当の経済力を持っているし戦略を間違わなければ、まだまだ成長の可能性もある。高齢者は肉体労働力が低下しても知的労働力は高いので相当の付加価値生産を上げることもできるだろう。知的財産権が確立してくれば更に相当の無形資産を所有することにもなる。高齢化や長寿化は社会問題ではなく社会変化であると認識すれば、そこに新たな可能性や発展性が見えてくるはずだ。高齢者が既存社会からリタイアしてその社会のお荷物になるか、新たな社会を創設して自立するかは天と地の差があるのだから大いにやってみる価値はある。

 

家庭紛争や世代対立はいつの時代どんな社会でも必ず起きる。夫婦・親子・嫁姑の関係から民族対立に至るまで価値観や習慣の違うものが共同生活を営むことは本質的に難しいらしい。ところが部落や集落、原始社会や少数民族など強い絆で結ばれた平和な共同体を見ると、群生動物と同じように強く賢いリーダーに統率された集団行動によって平和と秩序が保たれている。その社会には暗黙の掟とも思える秩序維持のルールがあって、ルールに反するものはリーダーや仲間から厳しく制裁されている。フランスの社会学者エミール・デュケールが言う「個人が権利を主張すると組織は崩壊し、結果として個人は孤立する」というアノミー現象を起こさないことが組織維持の原則のように思える。

 

400家族1000人くらいで構成される欧米のゴルフ倶楽部は集団の秩序が維持された文化コミュニティでもある。クラブキャプテンまたはクラブプロフェッショナルといわれるリーダー統率の下、クラブの集団秩序を維持している暗黙の掟は「ゴルフの基本精神」である。ゴルフの基本精神は自己審判・自己責任の原則に基づく礼節・謙虚・誠実・寛容など極めて高度な精神文化に支えられているため、集団の秩序が長く保たれてきた。ゴルフ場を中心に形成されるシルバータウンは「ゴルフの基本精神」を暗黙の掟とする限り、末永く平和と秩序を維持し高齢者の理想社会を築くに違いない。

 

「ゴルフ再生への道」 シリーズ1 ゴルフ王国の栄枯盛衰  完

 

 

ゴルフ再生への道 1-13 クラブのコミュニティリーダー

欧米豪州のプライベートクラブがキリスト教徒の地域コミュニティであることは私たち日本人には分かりにくい。プライベートクラブは驚くほど閉鎖的で、同じキリスト教徒でも宗派が違えば会員になることもプレーをすることもできない。「ゴルフ倶楽部なのに何をカタクナに」と思うが、ゴルフ倶楽部ではなく宗教コミュニティなのだと分かれば納得できる。日本の場合ならば神社仏閣を中心に信徒や檀家が地域コミュニティを形成し、神官や住職がコミュニティリーダーを務めていることを考えればクラブとは何か、コミュニティリーダーの役割は何かを理解し易い。コミュニティでは共通思想や共通価値観がないと組織の秩序を維持することが難しく、宗派の異なる信徒や檀家が同じステージで活動すれば必ず争いのもとになる。

 

欧米豪州のプライベートクラブはゴルフ倶楽部を宗教コミュニティにしており、共通思想はプロテスタント思想であり共通価値観はゴルフの基本精神である。数百人単位の集団が勝手に自己権利を主張し始めたら忽ち派閥争いや権力抗争が起きるに違いないが、共通価値観としてゴルフの基本精神ジェントルマンシップが守られれば組織の秩序は維持されるはずだ。無宗教や無神論が多い日本社会に共通思想を求めることは難しいが、ゴルフの基本精神ならば組織の秩序を守る拠り所となるのではないか。シルバータウンの共通価値観としてゴルフの基本精神が守られるならば、思想信条の違いや趣味嗜好の違いを乗り越えて秩序が保てると思うのは、ゴルフの基本精神が自己審判・自己責任に基づく礼節・謙虚・誠実・寛容なるジェントルマンシップに支えられるからである。

 

普通コミュニティーのリーダーは自薦他薦を含めた選挙制度によって民主的に選出されるが、この民主主義の原則が実は抗争や対立の原因になっていることが多い。民主制度は雑多な思想や価値観を公平に受け入れたうえで是非を多数決で決めるシステムだから、常に少数の不満分子を抱える組織でもある。多数意見と少数意見のバランスで秩序を保つ組織は砂上の楼閣に等しく、リーダーは常にメンバーの顔色を覗っていなければ地位は保てない。残念ながら絶対価値基準のない民主社会には本当の秩序が育たないことを現実が証明している。これに対してクラブは一定の資格要件を備えたプロフェッショナルがゴルフの基本精神を絶対価値基準に、コミュニティメンバーの公僕として仕える制度だからメンバーはリーダーの意見や判断に従わざるを得ない。逆らうもの反発するものは組織の反逆者として組織そのものから排斥される。この組織の秩序を維持する人材こそクラブリーダーでありプロフェッショナルだから、日本のゴルフ再生への道は、今後どれだけ多くの人材が育つかにかかっているはずだ。