ゴルフ再生への道 2-06 資格認定制度と人材育成

米国PGA教育部長ゲーリーワイレン博士を主任講師として開催された『NGFインストラクターズセミナー』は東京大阪を中心に5年間開催されたが、ボールフライトロウなど科学的な最先端理論に受講者は陶酔した。博士の提唱する「5つの原則・12の原理・無限の選択性」理論は最初難しく思うが、理解すると知らないことが恐ろしく思えてくる。さすがアメリカのレッスン界を統一した理論だと納得いくが、日本ではまだ多くの人が理解していないことに日米の格差を感じざるを得ない。ボールフライトロウはスイング論・スイング診断・クラブ開発・コースマネジメントなどにイノベーションを起こした原点だから、この法則原理を理解しないと進化の過程もイノベーションの結果も理解できない。原則を知らないと個人的な経験則や仮説理論の試行錯誤を永遠に繰り返すことになるが、日本のスイング解説やレッスン記事はワイレン理論を理解していないがために30年間変わらなかった。

 

日本が情報鎖国国家だと気付いてる人は案外少ない。PGA日本プロゴルフ協会はワイレン理論やNGF教育プログラムの導入を望んだが、1984年文部省公益法人に認定されるに当たって当局より「外国技術ノウハウの導入禁止」なる規制を受けたため導入することができなくなった。同時にスポーツ行政を文部省管轄下に統括してスポーツ指導員を国家認定資格制度に制定する方針を打ち出した。いわゆる『社会体育指導者資格付与制度』である。日本体育協会加盟団体が発行する指導者資格を文部大臣が認定するというもので、非加盟団体や民間機関を一切排除する事実上の国家統制令であった。その結果「文部省が認めない団体に加担協力したものはプロ資格を剥奪する」という厳しい通達が出されて関係者を震え上がらせたが、日本のゴルフ界は近代化を図ろうとした矢先に幕末暗黒時代にタイムスリップしてしまったのである。

 

不幸なことに鎖国令が出された数年後の1992年にバブル経済が崩壊し、日本のゴルフ産業は大破綻するが、その時点で欧米豪州にゴルフイノベーションが起きていたことも、日本のゴルフが完全にガラパゴス化していたことも気が付かなかった。1998年にはハンディキャップシステムがUSGA方式に世界統一されたことも気が付かず、日本がオリンピック開催国に決定して初めて慌ててUSGA方式を導入する始末である。そして最大の不幸は日本が情報鎖国している間に諸外国はどんどん近代化し人材が育っているのに、日本には人材育成の基盤整備すら進んでいなかったことだ。幸いなことにIT革命によるグローバル時代が始まり、TPP交渉によって日本人が世界に目を向け始めたために段々と世界の動向が分かり始めてきた。気が付けば行動の速い日本人だから一気に遅れを取り戻すだろうが、暴走バスに乗るのは避けたい。