ゴルフ再生への道 2-08 教育格差によるゴルフ産業低迷

「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」で始まる平家物語は既に800年前に既得権やブームにあぐらを掻く者はいつか必ず滅亡することを告げている。

20数年前、世界一を誇った日本のゴルフ産業は鎖国体制に護られて既得権益を形成し、世界に学ぶことを放棄した。つまり文部省は認定団体や関連団体に「外国技術ノウハウの導入禁止」なる通達を発布し、護送船団を組織して徹底的に既得権益を保護した。その頃米国では着々とイノベーションの成果が出始め、米国型科学技術ゴルフが完成しつつあったが、鎖国体制に入った日本のゴルフ界は最先端技術や最新情報の導入を頑強に拒んだ。その間米国カナダ豪州では教育制度が充実し、多くの人材を輩出して新たな繁栄を築いたのである。

 

この30年間で日米の間に生まれた教育格差は衰退と繁栄という正反対の結果をもたらした。衰退も繁栄も全ては人のなせる業だから人材なくして再生も復活もありえない。日本のゴルフ再生を目指すには、まず教育格差を埋める作業から開始しなければ人材そのものが得られない。情報鎖国によって教育基盤形成を怠った空白の30年で失ったものは余りにも大きく、経済産業省が警告する日本ゴルフ産業が崩壊する2030年までに適切に対応しないと警告が現実になる。残された15年で私たちは何ができるのか。教育格差によって生じた経済格差は教育改革によって再生する道しかないことは自明の理だ。

 

日本のゴルファーやゴルフ界の人に「勉強しなさい」と言うと殆どの人がキョトンとした顔をして「何を勉強するんですか?」と問い返す。教育不毛というのは教育不要と同じ意味を持っているようで、教育を受けていない人は教育を受ける必要を感じていない。だから教育振興のために教育不毛地でボランティア活動している人は、どうしたら現地の人たちが教育現場に来てくれるか考えるのに苦労するという。子供にはお菓子を上げたり遊んであげたり、大人には珍しい物を上げたりご馳走したりして少しづつ勉強に対する興味を持たせなければならないそうだ。

 

教育不毛地に教育の種を蒔くということは、教育を受けたら何か褒美をくれることから始めなければならないらしい。だから先進国は教育費を無料にするだけではなく国民の義務として強制することになったのだろう。本来人間は勉強するものではなく、勉強しないものとして対応しなければ教育は普及しない。公務員も軍人も昇進試験や昇給テストを課して勉強させているが、何のことはない人間もサーカスの動物たちと同じ「アメとムチの原理」によって芸を仕込まれていたのである。この原理は永久不滅の法則かもしれない。

 

ゴルフ再生への道 2-06 資格認定制度と人材育成

米国PGA教育部長ゲーリーワイレン博士を主任講師として開催された『NGFインストラクターズセミナー』は東京大阪を中心に5年間開催されたが、ボールフライトロウなど科学的な最先端理論に受講者は陶酔した。博士の提唱する「5つの原則・12の原理・無限の選択性」理論は最初難しく思うが、理解すると知らないことが恐ろしく思えてくる。さすがアメリカのレッスン界を統一した理論だと納得いくが、日本ではまだ多くの人が理解していないことに日米の格差を感じざるを得ない。ボールフライトロウはスイング論・スイング診断・クラブ開発・コースマネジメントなどにイノベーションを起こした原点だから、この法則原理を理解しないと進化の過程もイノベーションの結果も理解できない。原則を知らないと個人的な経験則や仮説理論の試行錯誤を永遠に繰り返すことになるが、日本のスイング解説やレッスン記事はワイレン理論を理解していないがために30年間変わらなかった。

 

日本が情報鎖国国家だと気付いてる人は案外少ない。PGA日本プロゴルフ協会はワイレン理論やNGF教育プログラムの導入を望んだが、1984年文部省公益法人に認定されるに当たって当局より「外国技術ノウハウの導入禁止」なる規制を受けたため導入することができなくなった。同時にスポーツ行政を文部省管轄下に統括してスポーツ指導員を国家認定資格制度に制定する方針を打ち出した。いわゆる『社会体育指導者資格付与制度』である。日本体育協会加盟団体が発行する指導者資格を文部大臣が認定するというもので、非加盟団体や民間機関を一切排除する事実上の国家統制令であった。その結果「文部省が認めない団体に加担協力したものはプロ資格を剥奪する」という厳しい通達が出されて関係者を震え上がらせたが、日本のゴルフ界は近代化を図ろうとした矢先に幕末暗黒時代にタイムスリップしてしまったのである。

 

不幸なことに鎖国令が出された数年後の1992年にバブル経済が崩壊し、日本のゴルフ産業は大破綻するが、その時点で欧米豪州にゴルフイノベーションが起きていたことも、日本のゴルフが完全にガラパゴス化していたことも気が付かなかった。1998年にはハンディキャップシステムがUSGA方式に世界統一されたことも気が付かず、日本がオリンピック開催国に決定して初めて慌ててUSGA方式を導入する始末である。そして最大の不幸は日本が情報鎖国している間に諸外国はどんどん近代化し人材が育っているのに、日本には人材育成の基盤整備すら進んでいなかったことだ。幸いなことにIT革命によるグローバル時代が始まり、TPP交渉によって日本人が世界に目を向け始めたために段々と世界の動向が分かり始めてきた。気が付けば行動の速い日本人だから一気に遅れを取り戻すだろうが、暴走バスに乗るのは避けたい。