藤田寛之というプロ

今年度賞金王に藤田寛之(43)が輝いた。同時に世界ランキング43位をキープしてマスターズ出場権を獲得した。谷口同様、以前から注目していたアラフォー実力プロだが、ここまで来ると注目を超えて尊敬に値する。用品用具や分析機器が進化したうえ、情報が豊富になった現代は経験の乏しいスターを次々と排出する。そんな中で衰える肉体や精神をコントロールしながら経験を生かして最大限のパフォーマンスを発揮するベテランプロの味は、人生に例えられるゴルフの本質を表し、オールドファンを魅了して止まない。米国PGAツアーではフィル・ミケルソン、アーニー・エルス、ジム・ヒューリック、スティーブ・ストリッカーらがベテランプロとして上位に名を連ねる。

 

ご本人には内緒だが「よくぞあの顔であの体であのスイングで、そしてあの歳で」とびっくり仰天の連続である。藤田プロの顔はテレビや雑誌で嫌というほど見せていただいたが、お世辞にもスター性があるとはいえない。しかし弾道を追う厳しい顔、鋭い眼に妥協の余地はない。一点を見続けてきた者だけが持つ小野田少尉や杉原輝雄と同じものである。米国PGAツアーに160センチ級はほとんどいない。しかし、米国メジャートーナメントで4日間戦うには相当の技術、体力、気力が必要である。以前にPGAナショナルブラックティーでプレーしたことを書いたが、私ごとき凡プレーヤーに太刀打ちできる相手ではない。ティーショットが池を越えない、フェアウェーに届かない、ラフから2,30ヤードしか飛ばない、いくら打ってもグリーンに届かない、バンカーから容易に出ない、2パットで収まらない。七難八苦とはこのことだ。

 

私は最初、藤田プロを見てなんと不器用なスイングだろうと思ったが、注目し続けるうちに鍛え抜かれた職人の技だと思い始めた。杉原輝雄は両腕でつくられたスクウェアをトップからフィニッシュまで崩さずにスイングコネクションを保っていたが、藤田寛之は両腕でつくられたトライアングルをトップからフィニッシュまで崩さずにスイングコネクションを保っている。あのスイングをするには全身が相当鍛えられていなければ無利だ。全身のパワーが集中してボールに伝わるメカニズムは科学的に解明されていない。野球でいえば、さほどスピードはないのにホームランを打たれず、頻繁にバットを折るような重い球に近いのではないか。PGAワールドツアーは環境や気象条件の異なる世界を舞台にして試合が行われるから、どんな条件下でもコンスタントに自分のパフォーマンスを発揮しなければ勝負にならない。そのうえ言い訳は一切通用しない。

 

一般にスポーツ選手は社会行動には不器用だが身体運動には器用な人が多い。特にプロスポーツ選手は動きそのものに器用さや華麗さがあり「動けば即技」を感じさせるが、藤田寛之にはそれがない。アマチュア名手でクラブデザイナーの竹林隆光さんの師匠が「本物のゴルファーは普段決してゴルファーに見えないものだ」といわれたそうだが、その意味からすれば藤田寛之というプロは本物のプロに違いない。どんな不器用そうな動きも、鍛え抜かれた正確な反復再現性があれば、それは素人を寄せ付けないプロの技であり芸術ですらあるからだ。改めて来年は藤田寛之というプロをじっくりと鑑賞させてもらおう。

 

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