ゴルフ再生への道 1-07 ゴルフ場オーナーは誰か
預託金返還問題は最初からボタンの掛け違いがあったのではないか。ゴルフ場建設を請け負った開発会社が10年経過してもゴルフ場を造らなかったら返還請求するのが当然だが、ゴルフ場が完成ないし完成間近ならば返還請求すべきではなかった。預かったお金でゴルフ場を造ったのだから、返すお金が無くて当たり前である。途中で抜けたければ第三者に証券を売却して資金回収すべきで儲かったら証券を売り、損したら金返せというムシの良い話は本来ありえない。有り得ない事が有り得てしまったところにゴルフ産業崩壊の元凶が潜んでおり、自分たちのゴルフ倶楽部を造ってゴルフライフを楽しもうとしたのか、ゴルフ場を造ってみんなで儲けようとしたのか、いずれも後の祭りとなった。裁判所は開発会社に対して「預託金を返還せよ」と命じたが、本来なら「ゴルフ場を引き渡せ」と命ずるべきではなかったかという気がしてならない。
会員制ゴルフ場のオーナーは誰かを考えたら常識的に会員ではないかと思う。
会員組合としての理事会がコースとクラブハウスを所有しクラブ活動を行うが、施設を所有しなければ施設オーナーから借りて活動する。前者の例が米国のナショナルオーガスタで会員はクラブハウスもコースも所有しプロに管理を委託している。後者の例がセントアンドリュウスでコースは市が所有し業者に管理を委託しているが、ロイヤルエンシェントクラブほか多くのクラブが市から施設を借りてクラブ活動をしている。欧米豪州ではゴルフ場の所有権と経営権、クラブ運営権が分離して目的を果たしているが、日本では70年代以降に多くのゴルフ場が預託会員権制度を利用し、開発者自身が三権を掌握して独裁体制を築き上げてしまった。そのため会員は建設資金を提供したうえ常連客にされただけで、権利らしきものは何も与えられなかった。
預託金返還問題は段々と泥沼の様相を呈し、97年には最大手の日東興行が返還に応じきれずに倒産した。では倒産ゴルフ場は誰のものか。本来ならゴルフ場やクラブハウスを会員に引き渡して預託金返還問題に終止符を打ちたいところだが、会員も破産管財人も大いに悩んだはずだ。ゴルフ場やクラブハウスには預託金を返還するために多額の借入担保が付いていたのである。ゴルフ場を引き取れば会員は預託金が返らないうえに多額の負債を抱えることになるから、破産管財人は現行の和議法も破産法も会社更生法も使えずに仮処分のまま暫定営業を続けざるを得なかった。やがて現場では債権者・会員・業者・従業員との間で売上金の奪い合いという醜い争いまで起こり、エケットマナーだのジェントルマンシップだのというゴルフの文化はついに地に堕ちた。ここに至ってようやく米国直輸入の非常破産法『民事再生法』が登場するが、法案通過を見越して日本上空にはアメリカハゲタカファンドが舞っていた。