ゴルフ再生への道 1-10 アメリカに残る前車の轍

アメリカに残されている前車の轍を60年前に遡って辿ってみると、日本の進むべき道がはっきりと見えてくるのではないか。60年前のアメリカは朝鮮戦争も終わり、ようやく平和が甦り荒廃しきったゴルフ場の整備に取り組んでいるが、ゴルフ場をタイプ別に仕分けしてコンセプトに沿ったマネジメントスタイルを確立している。タイプは完全メンバー制のプライベートクラブ、地域コミュニティや公営コース、完全パブリック制のデイリーフィーコースなどで、プライベートと高級リゾート以外は徹底合理化を図りワンラウンド20ドル前後の低料金を実現している。それゆえ地域の環境保全施設として、或いは教育文化施設やコミュニティ施設として広く定着してきた。

 

アメリカは3億1000万人に15600コースあるが、日本は1億2600万人に2400コースしかない。イギリスは6200万人に2700コース、カナダは3400万人に2300コース、オーストラリアは2200万人に1500コース、スポーツが多様化した欧州先進10カ国にも3200コースある。日本のゴルフ場が多いか少ないかは考え方によるが、高級接待施設と考えるなら多すぎるし、教育文化施設と考えるなら少なすぎる。日本のゴルフ再生に向けて大切なことは、ゴルフの社会的意義や価値についてもう一度根本から考え直してみることではないか。

 

振り返ってみると日本のゴルフ場は不純な動機によって造られたものも少なくない。金融商品や煉金場として建設されたゴルフ場はことごとく破綻したが、破綻ゴルフ場も地域文化資産であることに変わりはない。莫大な時間と費用を掛けて造成した地域の自然文化資産を如何に社会や人々の利益に還元するかという視点でみれば破綻ゴルフ場も貴重な財産だ。ゴルフ場は地域の社会環境にとって如何に有益か、ゴルフは人々の生活人生にとって如何に有意義かを検証してみると、アメリカに残る轍(ゴルフの変遷)は実に貴重な資料といえる。

 

日本はいろいろな面で歴史的転換期を迎えている。世界一の長寿国になったことや人類史上初の少子高齢化社会を迎えたことなど、前例もなければ前車の轍もない問題に直面しているが、土地が足りないといわれながら都市近郊の広大な生産緑地や調整区域は利用されていないし、労働人口の減少を心配しながら高齢者の豊富な知識労働力を無駄にしているし、財政難や資金難に悩まされながら世界一豊富な個人資産が有効活用されていないなど、パラダイムの転換を図れば無限の発展性を秘めていることに気が付く。ゴルフの普及率は先進国の文化バロメーターといっても過言ではないが、日本のゴルフが衰退していることは先進国としての地位や文化レベルが下がっていることを意味するならば、これは単なる業界問題として片付ける訳にはいかない。