進化した世界のゴルフ
今年のUSオープン中継の解説を丸山茂樹が担当した。解説を聞いていて「さすが!」と思ったことがいくつかある。何年もアメリカツアーに参戦し散々苦杯をなめてきたからこそ言えることをいくつか口にしていた。そのひとつがUSGAのコースセッティング能力の高さを熟知している点である。「全米オープン」は米国のコースを舞台に、世界のトップアマ及びトッププロが世界一を競うトーナメントである。競技方式は72ホールストロークプレーだから、言ってみれば世界のトッププレーヤーは、USGAが設定した難コースに力の限りを尽くして挑戦する構図になっている。
USGAは30年以上前からストロークプレーの大改革を行った。マッチプレーが人対人の真剣勝負であるのに対して、ストロークプレーは人対コースの真剣勝負という概念を明確にした。そのためにUSGAはハンディキャップ査定やコース難度査定に徹底した改革を施し、どんなレベルのプレーヤーとコースとでも互角勝負ができるシステムを考案したのである。だから世界のトッププレーヤーを迎え撃ったとしても、やたらにアンダーパーを出されてはコースがボロ負けしたことになるから、USGAの運営委員とコースのヘッドプロ及びグリーンキーパーは、世界のトッププレーヤーたちが死力を尽くして攻めてきても、絶対に負けないためのコース設定を必死に考える。四日間通してイーブンパーで優勝すればプレーヤーとコースは完全に互角勝負をしたことになる。コース側は1年以上前からコースやグリーンの改造を行ったり、フェアウェイデザインを変えたり、コースコンディションを整えて試合の日に備えている。
今年はジャスティン・ローズ(英国)とフィル・ミケルソン(米国)の一騎打ちとなり、ミケルソン最終ホール第3打でローズの優勝が確定した。優勝スコア1オーバーパーだからコースが1打勝ったことになる。出場選手全員がオーバーパーで予選通過者の最下位は27オーバーだから、みんなヘトヘトだったろう。丸山茂樹は解説の中で「僕としてはアンダーパーで優勝して欲しい」と言ったが、永年アメリカツアーに挑戦してきた者としては、当然プレーヤーに勝って欲しかったに違いない。USGAが名誉と誇りにかけて厳しいコース設定してくることを、骨身にしみて分かっている丸山にして初めて語れる言葉だろう。ワンアンダーならプレーヤー側の勝ち、イーブンなら引き分け、ワンオーバーだったからコース側の勝ちということだ。プレーヤーの立場からすれば、コース(USGA)に負けることが悔しかったのだろう。世界のゴルフがそこまで進化していることを丸山茂樹は知っていたのだ。