正統ゴルフへの道 1
大学を卒業してからゴルフを始めた私は、生涯一度も正式にゴルフを習ったことがない。会計法律事務所を辞めてゴルフ練習場の支配人になった私が最初に手がけた仕事は『月例競技会』と『ゴルフ教室』を開くことだった。練習場の役割は「上達したい動機付をつくること」と「正式なゴルフを教えること」だと考えたからだ。練習場でいくらボールを打ってもコースで正式なゴルフゲームをしなければゴルフプレーヤーにならない。正式なゴルフゲームとはルールに則った競技会に参加することだが、練習場ゴルファーには競技会に参加する機会がない。いつの時代も会員権を買ってクラブメンバーになる人は全体の2~3割程度にすぎないから、ほとんどのゴルファーが競技会に出る機会もないまま練習場に通って打ち直しの練習をしていたのである。
例えばバッティングセンターに通ってバッティングの練習をし、塀に向かってボールを投げてキャッチする練習をしても、野球というゲームに参加しなければ本当のベースボールプレーヤーにはなれない。壁に向かってテニスボールを打っている人も、実際にコートで相手とボールを打ち合ってはじめてテニスプレーヤーに成長する。相撲も四股を踏んだり柱にぶつかるだけでは相撲取りにはなれないし、それを一人相撲という。練習場でひたすらボールを打っている人を見ていると、バッティングセンターや壁テニス、一人相撲に汗を流している人と重なって、何とかしなければいけないと思い始めた。自分も支配人を引き受けたからには、正式にゴルフを学ばなければいけないと思って学校を探してみたが、東京でも芝の女性ゴルフ教室、赤坂と瀬田の陳清波モダンゴルフ教室ぐらいで学校といえるものはなかった。それまで英語、柔道、書道、会計、法律いずれを学ぶにも、テキストがあり教師がいて基本から順序良く指導してくれたものだ。ゴルフも奥が深いし難しいから、当然のこととして専門学校があり基本体系指導してもらえるものと思ったのである。誰に聞いても専門学校どころか、ゴルフは習うものではなく慣れるものだという。「そんな馬鹿なことはないはずだ」と思ったのが運の尽き。ゴルフの基本体系をまとめるのに30年の歳月を要するとは、その時点では夢にも思わぬことだった。
月例競技会を始めてまずルールの勉強から取り組んだが、次にすぐハンディキャップの問題が浮上した。公平適正なハンディキャップを算出するには正式な計算規定に従わなければならない。USGAハンディキャップマニュアルを読んでスコア台帳を作成し、練習場を閉めた後、そろばんを使って一人一人ハンディキャップ計算をするのは時間のかかる仕事だった。過去のスコアデーターから規定数の直近上位ディファレンシャルを検索し、その平均値の96%を整数にしてハンディキャップとする計算規定は、コンピューターには優しいがそろばんには厳しい。1970年代に入って米国は既にコンピューター社会が始まり、科学技術ゴルフの探求が始まっていたことを知るのは、それから大分経ってからだ。