ゴルフ再生への道 2-04 米国ゴルフ界の教育投資

日本のゴルフラッシュが始まった1970年代に米国ゴルフ界は本格的な教育投資を始めている。空軍スポーツディレクターだったNGF専務理事ドン・ロッシー氏は全米の大学教授から抜擢したゴルフコーチとPGA・LPGAの優秀な教育メンバーによってNGF教育コンサルタントチームを編成し教育プログラム開発を進めたが、そこに世界最強の軍隊をつくりあげた科学的システマティックなノウハウが導入されていることが分かる。何も知らない初心者(入隊兵)に道具(武器)の取り扱いから機能まで理解させ、能力に拘りなく誰もが順応できる実戦トレーニング(演習)によって、有能なプレーヤー(兵士)を育成するシステムはW・テイラーの科学的管理法に基づくものと思われる。

 

初めて1969年版「Golf Instructor’s Guide」1975年版「Golf Coach’s Guide」を見たとき私は余りの衝撃に茫然自失した。日本には教育プログラムどころか基本もないといわれていた時代だけに、日米の格差に容易ならざるものを感じたのは無理もない。この段階で既に学校教育用テキスト「Golf Lessons」「Etiquette & Rules」「Audio Visual Aides 16mm Film 5巻」が完成されており、学校体育教師向け「Instructor’s Seminar」も開催されていた。米国NGFと契約にこぎつけ、教育プログラムの全貌を知ることができたのは1977年夏のことであるが、全米統一の教育プログラムをつくるアメリカゴルフ界の底力をマザマザと見せ付けられた思いがする。

 

1960年代にゴルフ場の合理化再編成を終えていた米国ゴルフ界は、70年代には教育プログラムやマネジメントプログラムや使って人材育成を進めていた。具体的には学校教育に必要な人材として高校大学の先生をゴルフインストラクターに、ゴルフ場経営に必要な人材としてプロゴルファーやマネージャーをゴルフプロフェッショナルに再教育していたのである。高校大学の先生たちはゴルフができても我流に過ぎず、能力において千差万別の生徒を合理的に指導するすべを知らなかった。プロゴルファーやマネージャーもゴルフ場経営に関して専門知識に乏しく経験や勘に頼った素人経営の域を出るものではなかった。

 

全米各地でNGFセミナーやPGAセミナーが開催され人材教育が行われていたが、そこには徹底した産学協同体制に基づく民間プロジェクトの姿があり国家の関与は全くない。米国NGFはメーカー企業の寄付や会費収入による独立採算によって教育プログラムやマネジメントプログラムを開発し、高校大学やPGAは教材やプログラムを購入して人材育成を行った。米国ゴルフ界は産学協同の教育投資によってプログラムを開発し、人材を育成して世界一のゴルフ大国を築き上げたが、世界をリードする米国IT産業にも同じ姿を見ることができる。