ゴルフ再生への道 1-08 ハゲタカファンドの目

ハゲタカは日本上空を舞いながらゴルフ場をどのように見ていたのだろうか。普通ハゲタカは地上に死臭が漂わなければ輪を描きながら空を舞うことはないはずだ。もう身動きできなくなって死を待つばかりの状態になった獲物を狙って上空を舞っているのだから、日本のゴルフ場は瀕死の状態にあったことは間違いない。日本の和議法や破産法、会社更生法では生かすことも殺すこともできない状態で、周りにはライオンやハイエナ、狼がうろついていた。うっかりハゲタカが舞い降りようものならば逆襲されて大怪我する。ハゲタカが安心して舞い降りるには地上の猛獣が近寄れない状態でなければならない。

 

ここで登場するのが保安官ワイアットアープが使った長銃身コルト『民事再生法』だが、原型は新連邦倒産法第11章、通称『チャプターイレブン』である。裁判所からバッジを与かった保安官=管財人は『民事再生法』を構えてゴルフ場に立ちはだかり全員にホールドアップを命じた。落城寸前、瀕死のゴルフ場は無法地帯に等しい状態だったから、何としても法の下に秩序を回復しなければならなかった。ハゲタカは管財人によって静まったゴルフ場に舞い降りたが、驚いたことに「私たちは不良債権を漁りに来たのではない。再生を助けるために資金を運んできたのだ」とコウノトリのようなことを言うではないか。

 

実際にハゲタカといわれたヘッジファンドはいずれも数千億円の資金を用意していたが、彼らは一杯の水が砂漠では途方もない高値で売れる原理を知っていたのだ。彼らはまず銀行が抱える不良債権をバルクとして二束三文で買取り、それをオフィスビル、マンション、商業施設、ゴルフ場、証券などポートフォリオに仕分けする「事故車の解体屋」のようなことを始めた。金融工学を学んでいない私はハゲタカの目も耳も頭も持ち合わせなかったから、彼らの目的も戦略も解らなかったが、無知無学とは実に恐ろしいことだと痛感した。彼らは言葉どおりゴルフ場を再生するために来たのではなく、再生を助けるために来たのだったが、私にはその根拠が解らなかった。

 

彼らがいう「出口戦略」とは瀕死の状態に陥っている事業に「緊急資金」を提供し、債権や株を担保に再生資金を貸し付けて引き上げることを意味する。自助努力を怠って再生しなければサッサと第三者に債権や株を売り飛ばして逃げることもある。20年前のゴルフ場売買は不動産取引そのもので名義変更や登記変更だけでも大変な手間隙費用がかかったが、今はM&Aと称する会社売買だから簡単に売り買いできる。ゴルフ業界でも「所有と経営の分離」が始まったから、今後は頻繁にオーナーチェンジや経営交代が起きることになるだろう。確かにハゲタカファンドにボロ儲けされたが、犠牲が大きかっただけに高い授業料を払って再生の道筋をつけて貰ったと考えなければ納得いかない。

 

ゴルフ再生への道 1-01 所有と経営の分離

先週木曜日(2014/03/27)の日経新聞夕刊トップに「アコーディアゴルフ場売却し運営に特化」という記事が掲載された。記事によると現在アコーディアが所有する約130コースのうち、不動産などの権利関係が整理された100コースをシンガポールの投資会社に売却する方針だという。売却したコースはアコーディアがそのまま経営委託を受けてマネジメントを請負うことになるが、この一連の動きを専門的に「所有と経営の分離」という。つまり施設所有者と事業経営者が別れて目的別に機能しようという考えで、解りやすくいえば建物を所有するビルオーナーと建物を借りて事業をするテナントの関係になることを意味する。「なーんだ、そんなことか!」と思うかもしれないが、実は日本のゴルフ界にとっては大変なイノベーションが起きようとしているのである。

 

日本のコースは1960年代まではゴルフ愛好家たちが倶楽部を結成し、自分たちの専用コースを建設するために資金を出し合って創られたものである。例えば東京ゴルフ倶楽部は米国から帰国した井上準之助が財界の仲間と協力して建設した日本で最初の日本人ゴルフ倶楽部だとされている。基本的には60年代までほぼ同じコンセプトで建設されてきたから、コースは会員の共有財産として健全に運営されていた。会員から信任された理事会は支配人はじめ管理スタッフを雇ってコース管理やクラブ運営を行い、会員に経過を報告し結果に対して承認を仰いでいた。コースが災害に遭ったりコースを改造するには会員に諮って資金を出し合い、共有財産を護ったり価値を高める努力をしていた。

 

ところが70年代に入るや経済成長に乗じてゴルフブームが起こり、ゴルフ場事業は不動産開発と会員権発行が融合した日本固有の金融ビジネスに変わっていったのである。実体がなくても度胸と地図と赤鉛筆があれば、誰の土地であろうと30万坪を地図上に赤鉛筆で示しゴルフ場建設予定地とすれば、たちまち何億円もの資金が集まって事業家になれた。計画を発表したものはゴルフ場を開発する不動産事業家であり会員権を発行する金融事業家でもあり、成功すればゴルフ場オーナーとなりゴルフ場経営者となりクラブ理事長となって、所有権と経営権と支配権を掌握したゴルフ場オーナー経営者となったのである。三権を掌握したゴルフ場オーナーは一国一城の主であり専制君主でもあった。競って立派な城を築き贅沢を極めたが、男なら一度はなってみたい身分でもあった。私だってチャンスがあれば是非なりたいと思ったものである。しかし専制君主の時代が長くは続かないことは歴史が証明しており、やがて歴史の教訓どおり衰退崩壊の時代を迎えることになる。

 

ゴルフ再生への道 -2 ゴルフ場戦国動乱期 へ