全米プロゴルフ選手権

全米プロの結果に驚いた。最先端科学技術ゴルフの本場アメリカで、誰が世界一のプロかを競うトーナメントに英国の若手代表ローリー・マキロイが優勝してしまった。しかも2位に8打差の13アンダーという驚異的スコアだから言葉を失う。オリンピック開催に向けて選手強化を図っているのかと思わせるほど、ここ2,3年間の英国勢の台頭は凄まじい。この試合でも英国勢がトップテンに5人も顔を並べているうえワンツースリーの快挙だ。英国発祥のゴルフだから当然と言って片付けるには「ちょっと待て」だ。現代ゴルフは「英国伝統精神ゴルフ」と「米国科学技術ゴルフ」が対峙する構造で成り立っていると考えてきただけに、ちょっと待って欲しいのだ。

 

英国にしてみれば聖地セントアンドリュウスとR&Aを有するゴルフ発祥地にして家元のような国だから、ゴルフがオリンピックの正式種目になって簡単に敗退するわけにはいかない。日本の柔道と同じで、いくら世界的に広まったからといって家元が弱くては「ご先祖様に申し訳ない」という思いがあるに違いない。現実に女子に関しては韓国と日本の台頭が著しく、今後は中国・台湾をはじめアジア勢の勢いが増してくるだろう。男子に関しては当分アジア勢が上位を独占することはなさそうだが、4年後のオリンピックでは中国・韓国が台頭してもおかしくない。

 

実は「英国伝統精神ゴルフ」と「米国科学技術ゴルフ」は対峙するという言葉が当てはまるほど性格が異なる。英国の伝統精神はキリスト教騎士道精神やジェントルマンシップに支えられる行動規範や行動美学であったが、米国の科学技術は最先端テクノロジーを駆使した合理性や科学性の追求であった。今まで英国は古いものを守ろうとする保守性が強い国だったが、それでは世界の潮流に遅れてしまう。このままでは家元が世界舞台で影が薄くなる。そんな危機感が英国ゴルフを刺激したのだろうが、今の英国ゴルフは米国の科学技術を積極的に導入しハイブリッド化した姿が窺える。

 

英国型ゴルフは社交的で米国型ゴルフは攻撃的なイメージがあったが、今の英国選手を見ると社交性やスター性は余り感じられないが、強さと品格が備わって家元特有の風格を感じさせるからさすがだ。ゴルフがオリンピック種目になりメダル争いの中でショービジネス化していくと、英国型ゴルフが消滅していく恐れがある。勝てばいい、強ければいい、メダルが取れればいいというゴルフが蔓延したときにはゴルフの文化も消滅する。英国が必死に英国伝統精神ゴルフを守ろうとする姿は、日本が必死に日本柔道を守ろうとしている姿と重複して切ない思いがするが、日本は英国の立場が理解できるだけに、日本のゴルフが英国を支えるほど成長してくれることを切に祈りたいものだ。

 

新帝王誕生か

ボロボロの帝王タイガー・ウッズが欠場するUSオープンで世界中のゴルフファンがアッと驚いた。北アイルランド出身の弱冠22歳ローリー・マキロイがタイガー・ウッズの12アンダー優勝記録を更新して16アンダーで優勝したのだ。12アンダーですら当分破られることはないだろうと言われていたのが、16アンダーとは誰もが恐れ入った。全米プロやUSオープンは毎年コースレート委員や運営委員によって最高難度に設定されるから、出場選手は誰もがパープレーを基準にコースマネジメントしている。だから一番ビックリしたのはコース設定した委員たちだったろう。

 

北アイルランドが何処にあるか、すぐ説明できる人はそうたくさんいないかもしれない。まして北アルランドの国旗を見て英国の一部だと分かる人はもっと少ないはずだ。英国国旗といえば赤青白の米印みたいなユニオンジャックを思い出すが、ゴルフトーナメントにユニオンジャックの旗はなく、なぜか王国旗を掲げて出場する。ゴルフ発祥地スコットランドの国旗は青地に白のバツ十字、イングランドの国旗は白地に赤の十字架、北アイルランドは赤の十字架に王冠、ウェールズは白緑地に赤い竜。四つ足してユニオンジャックになるはずが、なぜか合わせるとウェールズが消えてしまう。いろいろ事情はあるようだ。

 

宗教改革以来、アイルランドはカソリックとプロテスタントの抗争が絶えないようだが、英国領となった北アイルランドは本国アイルランドと英国の板ばさみとなって確執や労苦が絶えないのではないか。私たちには分からないが思想や地勢上の問題は話し合って解決する問題ではない。昨年の覇者マクダウェルも今回のマキロイも言葉で表現できない思い十字架を背負って出場していたに違いない。その重荷をバネに爆発したとするなら、私たちは彼らを心から尊敬し賞賛するだろう。

 

私たちも今、大震災津波に放射能被爆という重荷を背負っている。聖書に「試練は忍耐を生み、忍耐は練られた品性を生み、品性は希望に変えられる」とあるように、北アイルランドの人々が十字架の重荷からマクダウェルやマキロイという希望を見出したなら、私たちも天災の重荷から石川遼や松山英樹という希望を見出したいものだ。二人が国際舞台の希望の星になるためには、もっともっと世界を体験し勉強しなければならない。ゴルフの競技年齢を考えれば未だ20年以上もある。七難八苦を天に願って、練られた品性を生むのが先決だ。日本よりうんと小国の北アイルランド、韓国、南アフリカを思えば確率的には断然有利なはずなのだから。