ガラパゴス化した日本のゴルフ

日本語、印鑑証明、連帯保証、有料道路、パソコン、ケータイ、カーナビなど日本でしか通用しない制度や技術を「ガラパゴス化」と言っているようだが、日本のゴルフもガラパゴス化が激しい。何がガラパゴス化なのか、何でガラパゴス化なのか多くの人が気付いていないところが、またガラパゴス化なのだ。
昔から「日本の常識、世界の非常識」とよく言われたものだが、グローバル化が進んで何が常識で何が非常識なのか、それも分からなくなってしまった。

 

私たち日本のゴルファーは、どんな名門コースも紹介予約を取ってビジター料金を払えばプレーできると思っているが、これがまず最初の世界の非常識。欧米豪州のコースはパブリックとプライベートがあって、パブリックコースは金を払えば誰でもプレーできるが、プライベートコースはメンバーと家族以外一切プレーできない。関係者以外の人がプレーするには、メンバーのゲストとしてクラブの承認をとり、メンバーと一緒にプレーしなければならない。クラブからゲストとして承認されれば、丁重にもてなされ無料でプレーさせて貰える。米国には約17,000コースある中で4,500コースは完全プライベートコースだが、その典型が毎年マスターズを開催するナショナルオーガスタだ。

 

私の事務所に時々「ナショナルオーガスタの予約方法」について問い合わせがあるが、「予約窓口も予約方法もないのでメンバーを探して直接頼んで見てください」と答えることにしている。反対にどんな有名コースでもパブリックなら誰でも予約してプレーできる。例えばセントアンドリュウス、ぺブルビーチなどが代表的で、カード会社や旅行代理店に頼んでも予約を取って貰える。このようにコースの経営システムが日本と欧米豪州では違うが、日本のシステムが常識化してしまうと、ほかのシステムは非常識に思えるようになる。

 

外から見ると日本のシステムは不思議で、預託会員権制度やビジター制度は理解に苦しむようだ。日本ではメンバー制コースにもフロント会計があって、メンバーもビジターも一回一回料金を精算するシステムになっている。確かに外国のメンバーコースにはフロントも会計もないから、ゲストでプレーしてもお金の払いようがない。日本ではメンバーより高い料金を払うのが常識だと説明しても「なぜゲストからお金を貰うのか」と首をすぼめる。「日本ではそれが常識だ」と言えばますます大きく手を広げて首をすぼめる。さらに執拗に迫れば「あんたの国では招待した客から金を取るのか?」と言われて、初めて「あっ!ガラパゴス化している」と気が付くのである。

 

全米プロゴルフ選手権

全米プロの結果に驚いた。最先端科学技術ゴルフの本場アメリカで、誰が世界一のプロかを競うトーナメントに英国の若手代表ローリー・マキロイが優勝してしまった。しかも2位に8打差の13アンダーという驚異的スコアだから言葉を失う。オリンピック開催に向けて選手強化を図っているのかと思わせるほど、ここ2,3年間の英国勢の台頭は凄まじい。この試合でも英国勢がトップテンに5人も顔を並べているうえワンツースリーの快挙だ。英国発祥のゴルフだから当然と言って片付けるには「ちょっと待て」だ。現代ゴルフは「英国伝統精神ゴルフ」と「米国科学技術ゴルフ」が対峙する構造で成り立っていると考えてきただけに、ちょっと待って欲しいのだ。

 

英国にしてみれば聖地セントアンドリュウスとR&Aを有するゴルフ発祥地にして家元のような国だから、ゴルフがオリンピックの正式種目になって簡単に敗退するわけにはいかない。日本の柔道と同じで、いくら世界的に広まったからといって家元が弱くては「ご先祖様に申し訳ない」という思いがあるに違いない。現実に女子に関しては韓国と日本の台頭が著しく、今後は中国・台湾をはじめアジア勢の勢いが増してくるだろう。男子に関しては当分アジア勢が上位を独占することはなさそうだが、4年後のオリンピックでは中国・韓国が台頭してもおかしくない。

 

実は「英国伝統精神ゴルフ」と「米国科学技術ゴルフ」は対峙するという言葉が当てはまるほど性格が異なる。英国の伝統精神はキリスト教騎士道精神やジェントルマンシップに支えられる行動規範や行動美学であったが、米国の科学技術は最先端テクノロジーを駆使した合理性や科学性の追求であった。今まで英国は古いものを守ろうとする保守性が強い国だったが、それでは世界の潮流に遅れてしまう。このままでは家元が世界舞台で影が薄くなる。そんな危機感が英国ゴルフを刺激したのだろうが、今の英国ゴルフは米国の科学技術を積極的に導入しハイブリッド化した姿が窺える。

 

英国型ゴルフは社交的で米国型ゴルフは攻撃的なイメージがあったが、今の英国選手を見ると社交性やスター性は余り感じられないが、強さと品格が備わって家元特有の風格を感じさせるからさすがだ。ゴルフがオリンピック種目になりメダル争いの中でショービジネス化していくと、英国型ゴルフが消滅していく恐れがある。勝てばいい、強ければいい、メダルが取れればいいというゴルフが蔓延したときにはゴルフの文化も消滅する。英国が必死に英国伝統精神ゴルフを守ろうとする姿は、日本が必死に日本柔道を守ろうとしている姿と重複して切ない思いがするが、日本は英国の立場が理解できるだけに、日本のゴルフが英国を支えるほど成長してくれることを切に祈りたいものだ。

 

オープンクラブ構想

米国を始め欧米諸国には近所のオジサン・オバサン・子供たちが集まってつくった小さなゴルフ同好会が多数ある。その同好会のほとんどがゴルフ協会加盟の公認クラブで、クラブキャプテンがいてクラブ規約があり、公認ハンディが発行され月例競技が行われている。公営ゴルフ場なら$10前後、私営でも$20前後でプレーできるゴルフコースが近所にいくらでもあるから、便利なコースを使って思い思いにクラブ活動をしている。年金生活者、失業者、学生にとって最も金のかからない遊びがゴルフなのだ。セントアンドリュウスも公営だし安いから、ここをフランチャイズにクラブ活動をしている同好クラブが無数にあるらしい。

 

日本ではこういかない。高額会員権を買うか、100キロ先の山奥クラブ会員になるしか手がない。仲間とクラブやサークルをつくっても全員が同じゴルフ場の会員権を買わなければ公認クラブといえないし、公認ハンディキャップも発行できない。会員権を持っている人でも、家族や仲間を誘えば高額ビジター料金を請求されるから練習試合もできない。結局はいつまでたっても親しい仲間とクラブを結成し試合をすることは夢なのである。私も年をとったら家族や友人とクラブを結成し、ゴルフ談議や真剣勝負に明け暮れる日々を過ごせたらと密かに夢を抱いていた。どうやら夢に終わりそうで半ば諦めかけていたが、最近ひょっとすると現実になるかもしれないという気がしてきた。

 

かたくなに変わろうとしなかった日本の社会が、一気に変わろうとする気配が感じられる。官主導が民主導に、中央集権が地方分権に、資本優先が福祉優先に、日本固有の有料道路が世界標準の無料に。保守的なゴルフ界すら若者によって変わらざるを得なくなってきた。預託会員権と接待ゴルフの経営システムが根底から崩れてしまった。国際社会に疎い日本人も、もうそろそろ何が変なのか気が付くに違いない。世界のゴルフ料金は公営も私営も日本の1/10であることに。欧米では大統領も総理大臣もセルフプレーであることに。スポーツ組織や団体は官僚機構の統制管理下にないことに。同好クラブの結成も活動も私たちの自由な意思と規律に委ねられていることに。このようなことに気付いた人達が住む社会を自由民主社会といい、決して国家統制社会とはいわない。だから悪夢が夢になり、夢が現実になるような気がしてきた。